金色の光

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金色の光

 陽子がホカホカの焼き芋をテーブルに広げた。 「わあ〜お芋さん!ショーマ、ママの焼き芋めっちゃ美味しいの❤️食べて!」    焼き芋は翔馬の大好物である。早速いただく事にしようと手に取り半分に割ってみた。  ありゃ?真っ黒な焼き芋だ。あ、美味しい! 「美味しい?」 「うん!甘くて美味しい。蜜が凄いよ。でもね・・・昔、こんな焼き芋食べたことあるような気がするんだ・・・」  翔馬は思い出した。 施設の近くの農業試験場で年に2〜3回、農園での収穫の手伝いに行った時、必ず最後に一人2本の焼き芋を貰ったこと。いつも翼と一緒に行った事。お姉さんが翼と翔馬にはいつも3本ずつ手渡してくれた事・・・。 「翔馬君、私、昔から翔馬君の事知ってるのよ」 「え?僕の事を?」 エリー以外はこの話を既に聞き及んでいるのだろう、皆大いに頷いている。 「うん!翔馬君ともう一人の男の子に、いつも3本ずっと焼き芋あげてたでしょう?いつもたくさん働いていたからね」 「え?」翔馬の頭は混乱している。 え〜と、フランスにいる陽子さんが僕と翼に焼き芋を3本あげた・・・陽子さん、陽子・・・。 「あ⁉︎」 「思い出した?」 「え〜⁉︎あの農業試験場のお姉さん⁉︎」  陽子がにんまりと笑った。 「何?何?教えてよ〜!」エリーが席を立って陽子に詰め寄っている。  陽子がエリーに詳しく事情を話すと、真ん丸の瞳を更に大きくして驚き、そして言った。 「21世紀最大のニュースだわ、パパ!」  翼が見た夢の事をみんなに話すと、皆腹を抱えて大笑いし、既に父親になった事、3ショットの写真をみせると、ロッシも、バルザも、ローザも、ウッドも、勿論陽子も、 「それは大変おめでたい!何か贈りましょう!」と、緊急会議を初めてしまった。  異国でこんなに話題になっている翼は、夏の北海道で今頃風邪を引いて寝込んでいるのではないだろうか?  取り残された2人。と、エリーが翔馬に耳打ちをした。「?」  にっこりと微笑んだ少女に翔馬は手を引かれ、リビングを出て玄関に向かった。 「White horse?」  8月17日正午、翔馬の姿はシャルルドゴール国際空港の搭乗カウンター前にあった。  たくさんの事を学んだ。 騎手としての心構え、命の大切さ、そして、人の温かさを。  フランスの風を、匂いを感じた。  熱気を、鼓動を感じた。 二度と忘れる事のないであろう貴重な経験・・・。 「翔馬君、フランスに来てくれてありがとう。また来年会いましょう」    森永師 「来年、ウチの牧場の期待馬に是非乗ってください」            バルザ                「来年の夏もたくさん料理を作ってお待ちしてますわ。ショーマの大好きなタルトタタンもね」               ローザ 「エリーにたくさんの思い出を与えてくれてありがとう。また来年、フランスに来てください」               ウッド 「翔馬君、怪我には気をつけてね!年末北海道に帰った時に、両親と翼君によろしく伝えておいてね」            陽子 「いつも君の事を見守っているよ。幸運を!」               ロッシ  終わりは始まりのために訪れるもの。  別れは再会のために、そして、人として成長する為に不可欠な物・・・翔馬は1人1人と挨拶を交わした。  少女は泣いていた。 翔馬は少女の前に屈んで、彼女の髪の毛を優しく撫でながら言った。 「来年また来るよ!フェニックス、乗せてくれるんだろ?」  エリーは顔を上げ、涙を拭い精一杯の笑顔を作った。 「うん!ショーマ以外は絶対に乗せないもん!」 「そりゃそうだ!あの馬は絶対に誰にも渡さん!それがたとえドバイの皇太子であってもだ!」  ロッシの豪快な宣言に、一同は笑いに包まれた。 「ショーマこれあげる」 エリーは翔馬に1通の封筒を渡した。 「手紙?」 「うん。写真も入ってるの」 「ありがとう。じゃあ、僕もエリーみたいに部屋に飾ろうかな!」  エリーは顔を真っ赤にして翔馬に抱きついた。  新たなる旅たちの時が来た。 翔馬は立ち上がった。またの再会を誓って。 「皆さん、本当にありがとうございました。また来年、フランスに戻ることができますように頑張ります!」  一行は別れを惜しむかのように、それでも懸命に笑顔を振り絞り彼を送り出した。  彼は背を向けて数歩歩みを進めた。 と、突然後光が射すかのように金色の光が彼を照らした。ロッシは目を瞠った。  ああ・・・・・・やはり彼は・・・。 騎手ならば誰もが憧れて止まない人馬一体の証・・・クラヴァシュドール(黄金のステッキ)、そして羽根を畳んだ黄金の翼が彼の背に・・・。  彼に栄光あれ。彼を守り給へ。 ロッシは、心から神に祈った。  一筋のコントレイルが東の空に向かって伸びてゆく。  彼らは地上から翔馬を見守った。 その飛行機雲が大空と同化し、消えて無くなってしまうまで。 「また来年・・・」エリーがそっと呟いた。  見守る人達の輪が紡ぎ出す綾糸は、この先彼にどのような紋様を浮かび上がらせて行くのだろうか。  翔馬は遠ざかるパリの街並みを、思い出を見つめていた。  いつまでも、いつまでも・・・・・・。 fa9f63b3-0e7c-4ea6-8469-61c1c1ac12f4 PS・・・次回配信は16日日曜日午前8時です。  皆様に大切なお知らせがあります。               AKIRARIKA  
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