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「ほんで、結城の方はどないなん? ちっとは進展したんか、市ノ瀬さんと。 さっきも変に勘違いされとったし、やっぱ難しいん?」
「あー……うん、なかなか……ね」
「そか。 まぁ相手はかなりの天然やからな。 卒業までに付き合えれば御の字やろ」
それは確かにそうなんだけど、出来れば来月の三月内には結ばれたいんだよな。
四月からは俺達も三年生になり、クラス替えがある。
その時、また一緒のクラスになれるとは限らない。
だから冬休み開けてから、市ノ瀬さんの積極性にも磨きがかかってるんだと思う。
俺と同じで焦りを感じているから……って、市ノ瀬さんはあそこで一体何をしてるのだろう。
自分の机の影に友達と隠れながらこっちをチラチラ窺っている。
「なにしとん、咲乃ちゃん。 話しかけるんとちゃうの」
「わかっとるよ、それはわかっとるのよ。 でも心の準備が必要やと思わん? うちは思う」
「そんなんやからいつまで経っても進展せえへんのじゃろ。 はよ行ってき!」
「あひゃあ! ちょ、背中叩かんといて! 真依ちゃんの腕力ゴリラ並みなんよ!」
「誰がゴリラや、乙女に向かって。 生意気言うとるともう一発やったるぞ。 このゴリラアームで」
「気に入ったん、ゴリラ呼ばわり。 ほんならこれからゴリちゃんって……うひぃっ!」
背中を再度叩かれた市ノ瀬さんは、ヨロヨロと机の影からこちらへと避難。
涙目になっている彼女の手には、チケットが握られている。
「うぅ……佐藤くぅん。 ゴリラが虐めてくるんよぉ。 助けてぇ」
「おい。 後で覚えとけよ、ほんまに」
犬ケ渕真依さんが、市ノ瀬さんを物凄い目で睨んでいる。
俺はそれを見なかった事にして、苦笑いを浮かべた。
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