2人が本棚に入れています
本棚に追加
そして、今年も同じ現象が起きた。
彼女は毎年、この季節に姿を見せた。
今までは丈流の地元だった。
遠く地元を遠く離れた、この大学の地であっても夏生と会うとは思わなかった。
彼女は、桜と丈流に縛られているのかもしれない。
桜に囚われた幽霊なのだと丈流は思った。
だからこそ、桜が咲いている時期は丈流にとって辛い時期でもあった。
夏生は桜が好きだった。
夏生は桜の花が好きで、桜の開花する時期に必ずと言っていい程、桜を見に行くことが多かった。
あの時、丈流は何をするべきだったのか今も思い悩む。
しかし、結局、何もできなかっただろうと思う。
夏生は、桜の美しさに惹かれていただけだ。
その美しい死に方にも惹かれていたのだ。
彼女の死が桜と結びついている以上、桜の花を見るたびに思い出してしまう。
その苦しみから逃れることはできない。
その事実が、丈流を苦しめ続けていた。
話を聞いた悠太と拓海は、しばらくの間、沈黙を保っていた。
「そういうことだ。だから、僕は桜が嫌いなんだ」
丈流は、夏生のペンダントを手に一人夜桜の間を歩き始めていた。
夏生の墓前に向かって。
最初のコメントを投稿しよう!