花の浮橋がかかる頃に

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◇◇◇  けれど、その夢が叶うことはなかった。  娘は翌日、あの川から凍てつく冬を思わせるような冷たい溺死体となって見つかった。  その日はうららかな、いい、春の陽気だったと思う。  本能的溺水反応というらしい。  何が起きたのかも分からず、パニックにすらならず、空気が抜けるちゃぽんというほんの小さな音だけ残して、娘は誰にも気付かれずに一晩、水の中で眠っていたそうだ。  どうしてあんな小川の中に……欄干も落ちない高さで、周りも柵で囲まれているのに……と発見してくれた警察の方は気の毒そうに言ってくれたが、僕にはその理由が分かる、分かってしまう。  見せたかったのだ。僕たちに、桜色のカーペットを闊歩する姿を。
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