花の浮橋がかかる頃に

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 あの日、妻を呼びにレジャーシートに二人で戻った。だが、妻は朝から張り切って弁当を作ったからか、うつらうつらと舟を漕いでいたのだ。  「ママー!」  「しーっ。しーっして?ママお昼寝してるから」  「でも……」  僕が再度唇に人差し指を当てると、娘は両手で口を覆った上で囁き声で喋る。  「でも、見せたい……」  「じゃあ、ママが起きたらパパがママを連れて行くよ」  「ほんとに?約束ね!」  「うん、ほら」  既に靴を脱いで妻に頭を預けてもらおうと体育座りになった体勢からぐっと腕を伸ばす。小さな小指と搦めて小声で歌う。  「どうする?一緒に休憩する?」  娘はふるふると首を振る。  「まだ遊んでくる!」  また、見て!候補を探そうと、すぐに駆けだした娘を引き留めようとして、今年、もう小学校中学年にあがることを思い出した。心配だからって親がずっとついていくのも過保護すぎるだろうか。  「公園の外出ちゃダメだよ」  「ん!」  力強く頷く後ろ姿を見たのが、僕が娘を見た最後だった。
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