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桜に攫われそうな、という比喩がある。儚いという意味だけれど、結局攫われそう、でしかない。けれど桜が本当に人を攫うことだってある。あの人は桜に攫われた、だから俺は桜が嫌いだ。
消えそうという表現なら儚さになるけれど本当に消えたら行動力だと言う人もいる。でもあの人はそうじゃなかった。だってそんな、桜一本だけがある丘の上、どこにも隠れられる場所なんかないその場所であの人は消えたんだから。
一瞬だった、一瞬の桜吹雪に驚いている間にあの人は消えた。桜が攫ったとしか考えられない。だから俺は桜が嫌いだと言うしかない。
それからずっとあの人は戻ってこない。俺のことが嫌になったんだと誰かが言ったけれど、別にそれならそれでいい。ただそれなら、俺はあの人があのときどうやって消えたのかだけは知りたい。だってあの一瞬で消えることができるような場所じゃない。
俺は桜があの人の意思を無視して攫ったのだと思っている。だから俺は桜が嫌いだ。
もしかしたらあの人が俺を嫌っていたのかもしれない。その気持ちと桜が攫おうとするのと、利害が一致したのかもしれない。でもその一言もなく消えるためにはやっぱり桜がいなければいけなかった。
話せば何かわかったかもしれないのに、その機会を奪った桜のことが俺は嫌いだ。
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