庭に佇むキミへ

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 暮れなずむ頃になると、いつも庭の梅の木の枝にもたれ掛る彼女の姿を見る。 「やあ、またブーたれてるのかい?」  綿入れ半纏を羽織り、幹久は彼女の元へと歩み寄る。随分と年寄りくさい格好ではあると自覚はしているが、夜はまだまだ肌寒い。 「ブーたれたくもなるわよ。だって、桜が咲いたのだもの」 「そうだね。そこらかしこも満開で、みんな、スマホ片手に写真を撮りまくっているよ」 「そ・れ・が! 気に入らないのよ! 何よ、梅が咲いている時は『ああ、梅だね~春が近いねぇ』なんて大したことないって態度でいるくせに、桜が咲いた途端、浮かれだして、やれ花見だの祭だのと騒ぐのよ! どうして桜前線はあるのに梅前線はないのよ!」  まるで本当に口から火を噴いているんじゃないかと思う程に、怒涛の気炎を彼女は吐くが、毎年の恒例行事だと分かっている幹久は動じない。 「本格的に春が来たってことだろうね。日照時間が長くなって日中はぽかぽかする。その本格的な春の象徴が桜じゃないのかな?」 「梅だって初春の花よ」
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