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「うん、でも、まだ冬の時期が抜けきっていないから、場所によっては雪も降るしね。桜を迎えて、みんな春だと思うんだ。それに桜の花は派手だからねぇ。一つの花の芽から幾つもの花枝を伸ばして花開くものだから、みっしりと密集して光り輝く枝のようだ」
「それに比べて梅は花が散ったあとで寂しいものね」
桜の灰茶色の木肌と違う、茶色の枝を彼女は撫でて溜息を零す。
「そう? もうすでに小さな若葉と梅の実が結実しているじゃないか」
幹久は薄っすらと笑みを浮かべながら、彼女へと手をのして、少しばかり膨らんだ頬を優しく撫でていく。
「よく目にするソメイヨシノは種を身籠らない。あれは挿し木で増えていく命だから。散ってしまえば後には何も残さない……まあ、そこが潔くていいって人もいるけどね。でも、梅は実を残すだろ?」
「……うん」
「実った梅の実で梅酒を作ったりジャムを作ったり……まあ、作るのはばあちゃんなんだけどさ。梅干し入りの茶漬けとか美味いよなぁ」
「食べる事ばっか」
「うん、そうして今年も良い実を作ってくれてありがとうって感謝して、また来年も美味しい実を作ってくれよなって未来のことを思うんだ」
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