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始まり
私は目を奪われた。
ふわっと浮いたシャトルが、気づけばバシッと相手コートに落ちていた。
「かっこいぃ…」
間近で『バドミントン』を見るのは初めてだった。
歳の離れた高校生の兄が、関東大会に出場すると聞き両親に連れられ、見に来た。
そして、これが私にとって運命の瞬間となった。
この瞬間から私は青春の全てをバドミントンに捧げることになる。
――――――――――――――――――――
「1年B組、高海結優です。兄がバドミントンをやっていて憧れて入りました。よろしくお願いします!」
中学に入り、私は当たり前のように兄と同じバドミントン部に入った。
兄の大会を見に行ってから間もなく、私は地域のバドミントンサークルに入った。
大人しかいないサークルだったので否が応でも私の実力は着実にのびていった。
周りのほとんどが初心者だったけど、私と1人の男子―佐久村貴斗―が経験者だった。
「高海って…ここ出身の高海紘さんの妹…?」
経験者同士よろしく、と挨拶しようとしたら彼に聞かれた。
驚いたように、くるみ型の大きな目をパチクリ、とさせながら。
「ひーくんを知ってんの…?」
「ひーくん?」
「あ、兄のことひーくんって呼んでる。紘だから」
「あーそういうこと。知ってるのって…当たり前だろ。ここの中学出身って聞いて俺はここに来たくらいだし。高校も紘さんが卒業したとこ行く予定」
「そうなんだ。私はひーくんと違って上手くないけど…それでも頑張りたくて」
彼は私のことなんて興味なさそうにふーんとだけ言い、その場を離れていった。
――――――
「ただいまー」
4月中は体験入部の為、5時には家に帰らされる。
「おかえり〜」
両親は共働きで帰りも遅いので家では大体、私とひーくんの2人だ。
「学校慣れたかー?部活はバドミントン入ったんだろ?」
いつもリビングでダラダラしているひーくんは私が帰ると夕飯の準備をしてくれる。
「慣れたよ〜友達もいっぱいできた!部活は楽しいよ。私と男子の1人以外初心者だけど皆でわいわいやってる!」
笑顔で答える私を見てひーくんは安心した顔をする。
「そうか、良かったな。経験者の男子ってもしかして佐久村って名前だったりする?」
ひーくんの口から彼の名前が出てくるなんて思いもしなかった。
「そうだけど、ひーくんなんで知ってるの?友達の弟さんとかなの?」
私が心底不思議そうな顔をして聞くとクスクス笑いながら返事が返ってきた。
「佐久村の兄貴と仲が良いんだよ。この前『俺の弟がお前に憧れてお前と同じ中学に行くんだ、お前の妹と同い年だしもしかしたら仲良くなるかもなー』って言ってたからさ」
俺も佐久村もシスコンブラコンだからついつい話しちゃうんだよな、なんて言いながらひーくんは苦笑した。
「知り合いだったんだ。たぶん…仲良くなるしかないと思うんだよね。高校もひーくんが行ったとこ行くって言ってたから同じだし」
そこで話は一旦途切れたのでお風呂に入り、部屋で黙々と勉強をした。
授業が始まり友達も増え、部活も楽しい。
順調な日々だからこそ、私はどうしようもない不安にかられてしまう。
そしてその不安がいつか的中してしまう…
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