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夏休み
貴斗と付き合い始めて1週間が経ち、なぜかクラスメイトのほとんどに付き合っているのがバレた。
おめでとう、お幸せに、と口々に言ってもらったけど…失敗が私の心から離れることはない。
まぁ!そんなこんなで学校最終日の今日は、午前中で下校となる。
灼熱の体育館に全校生徒が詰め込まれ、サウナ状態だった地獄の終業式も乗り切った。
今は先生の手伝いや各自のロッカー&机の片付け、とわりと自由な時間だ。
自分の片付けを早々に終わらせ、友達の席に居座る。
「結優ー!片付け手伝ってぇぇぇ」
「結優ちゃん…私のロッカーお願い…」
そんな声が聞こえる度にはいはい笑、と応え片付けを手伝う。
すると
「結優…お前の旦那やべぇよ…」
と男子から声をかけられた。
貴斗の方を見ると、今まで溜め込んでいたのだろう…大量のプリントをロッカーと引き出しから出している。
せっかく顔良しのイケメンでスタイルも良いのにこれじゃ台無しなんだけど…と1人ため息をつく。
手伝っていた男子も手に負えなくなったのか呆然と大量のプリントを眺めている。
当の本人はとりあえず全部のプリントを出し終え、やりきった!みたいな満足そうな顔をしている。
暇だし手伝うかぁ、と重い腰を上げ、貴斗の方へ歩み寄る。
「ほら!手伝うから早く片付けろ!…っどんだけプリント溜め込んだの?これなんて大事なやつなのに、しわくちゃ…はいはい!こっちに大事なやつでここにゴミとかいらないやつまとめて!教科書とかはリュックに詰める!」
一緒に片付けていた男子はありがとぉ…と言うように顔の前で手を合わせていて思わずぷっと笑ってしまう。
「結優は片付け終わったの?」
「終わったからここにいんだよ!ほら!一緒に帰るんだろ?あんまり遅いと置いてくからな」
「それはやだ!ちゃんと片付けるから一緒に帰る!」
思った通り、私のことについての話を持ち出せばすぐやる気になる。
そういうところが可愛いんだよなぁ、なんて思う。
頑張ってプリントをまとめている横顔でさえ私にはかっこよく見える。
恋は盲目って本当なんだ、と思わず感心してしまう。
「結優!これあげる!俺が描いた!」
ボーっと貴斗の横顔を眺めていたら山になっているからプリントの中から1枚の紙を引っ張ってきた。
「なにー?絵でも描いた?」
「じゃーん!結優の絵!」
そう言って私の目の前に広げた紙には、私が授業を受けている構図が。
「どう?どう?結構自信作なんだけど」
紙を受け取りしばらくそれに見入る。
「すっご…ひと目みて私だってわかる!貴斗こんな絵上手かったの?!」
「だろー!結優見てたら描きたくなって描いた!絵とバドはできる!勉強はまぁ…うんって感じだけど…」
貴斗の顔はバドをやっている時くらい輝いていた。
「そっか…初めて知ったな…」
「?」
「あー…ううん!なんでもない!ほらほら!片付けする!一緒に帰るんでしょ!」
「あ、そーだった!いそげー!」
――――――
出会った頃は少し喋る程度で表情もあまり変わらなかった。
そんな貴斗が今は色んな人と喋って、笑い合って、私のことを好きだと言ってくれて。
昔出会っていたことも覚えていてくれて。
前に『貴斗、変わったね。いつもニコニコしてて楽しそう』と言ったことがあった。
するとキョトンとした顔をして『結優と一緒にいるから、結優と出会ったから変わったんだよ』と言っていた。
そんな貴斗だから私が知らないことなんてほとんどないと思っていた。
それでもふとした瞬間に新しい面を見ると、嬉しいような悲しいような気持ちになる。
まぁ全部私が大好きな貴斗に変わりないんだけど!
――――――
「じゃー以上で終わり。気をつけて帰れー。夏休みハメ外し過ぎんなよー。夏祭りは先生も見回りで行くからなー?」
「「「「「「さよならー」」」」」」
片付けも終わり、灼熱の中で家へと歩く。
「やっと夏休みだー」
「な〜。でもちゃんと課題あるからしっかりやれよ?終了3日前とかに泣きついてきても知らないからな?」
「うっ…はい、頑張ります…」
「まぁーでも…勉強と部活だけじゃなくてどこか出かけたいとは思うよね〜」
まだ始まってない夏休みに早くも夢を描く。
「だよな!ディズニーとか行きたい!海でもいい!」
「あーはいはい、そうだね。課題終わったら考えよう」
「はぁーい…」
しょうもない話をしていれば気がつけば私の家についていた。
「じゃあね、送ってくれてありがと。また部活で」
ギュッと抱き合い、手を振って貴斗の姿が見えなくなるまで見送った。
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