夏休み

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昔から顔が人より整っているんだな、というのは感じていた。 それは全然嫌じゃなかったし、自分でも気に入っていたからなんの問題もなかった。 ―――――― 小3でクラブに入ったその後も伸ばしていた髪は継続して伸ばしていた。 伸ばしていた理由は特になかったけど、茶髪に近い色で気に入っていたし、周りにショートカットの子なんて1人もいなかった。 だから皆に合わせていたというのが理由らしい理由だった。 ―――――― 私の周りの友達は小4、小5くらいになると思春期に入った。 ○○君がかっこいい、□□が好き、休み時間になるたびにそんな話をしていた。 私は別にイケメン、というかそもそも男子という存在自体に興味がなかったから、友達の話を聞いて『恋愛してて可愛いなぁ』くらいにしか思っていなかった。 そんな平凡な日が続いていたある日。 私の人生は変わった。 朝、いつも通り登校して、朝の会を受けて、授業を受けて、お昼を食べて。 昼休みになったところで、いつも教室の端で本を読んでいる大人しい友達に『大事な話があるからついできて欲しい』と言われた。 大人しくついていくと、普段使われていない屋上へ通じる階段で足が止まった。 『話って?何かあった?ゆっくりで大丈夫だから言ってみて?』 私はいつものトーンで話しかけた。 すると、ポツリと 『…っ、好き…』 と呟いた。 耳を澄まさなければ空中に溶けてしまいそうな、そんなか細い声で。 『…っえ?』 びっくりして思わず私が声を出すと、相手は大粒の涙を零した。 『っごめん、ごめん!気持ち悪いよね…本当にごめん…でも、好きなの…!っ結優ちゃんは…可愛いくて、スタイル良くて、勉強も運動も出来るから…男子から人気高いでしょ?でも小1からずっと…ずっと結優ちゃんが好きだった!女子とか関係なく結優ちゃんだから好きなの!』 今まで溜め込んでいたものを全て吐き出すかのように叫ぶ【彼女】は儚く、美しかった。 なんとか彼女が落ち着いたところでチャイムが鳴り、2人で慌てて教室へと戻る。 返事はすぐじゃなくて大丈夫、と言われたので1週間考えさせて、と伝えそれぞれ家へと帰った。 でも、あんまり待たせるのも良くないよね、と思い、次の日にはしっかりと返事をするつもりだった。 お試しから始めませんか、と伝えたくて…。 ―――――― 次の日、学校に着くと不穏な空気が教室を取り巻いていた。 私の姿を視界に捉えた瞬間、友達が次々に私の元へ駆けてきた。 『結優!Sに告られたって本当?!』 『ちゃんと断った?!断りづらかったら私達に言ってね!!』 『そうだよ!うちら結優の味方だから!』 女子だけでなく、男子も 『結優…大丈夫か?』 『なんかあったら言えよ?俺らができることやるからな!』 と駆け寄ってきた。 S、というのは告白してくれた彼女の名前。 その時、声が出ないほどびっくりした。 なぜ私が絶対断ると思っているのだろうか、と。 確かに彼女はあまり社交的とは言えないし、性格や雰囲気も明るいとは言えない。 クラスの中でランク分けするとしたら、私は上で彼女は下に分類されるだろう。 それでも教室のゴミを拾ってくれたり、担当の子が忘れてる仕事をさり気なくやってくれてたり、とても良い子だ。 そんな子が勇気を出して大きな一歩を踏み出してくれたんだ。 前向きな返事をしたいなと、そう思っていたのに…。 そうこう考えていると彼女が登校してきた。 そして私が声をかける前に、友達が 『ねぇ、まじでキモいんだけど』 と冷たい声で言い放った。 それに続くように他の人もグサグサと言葉のナイフを彼女へ投げつける。 『お前みたいな根暗がなんで告白なんてしてんの?』 『結優に見合うと思ったら大間違いだからね?』 『つーかまず、女なのになんで女に告ってんの?』 『結優みたいなマドンナにお前みたいなブスが似合うわけねぇだろ笑』 『喋らないと思ってたらまさかのレズ?笑。うけるんだけど笑』 もう…やめて…彼女は何も悪くない…皆が普段話してる恋バナと変わらないんだよ、?好きな人に思いを伝えただけだよ…? そう言いたくて私がガタッと立ち上がると同時に彼女は踵を返して教室を出て行ってしまった。 『あ、逃げた』 『結優、大丈夫…?ごめんね、自分で直接言いたかった?』 『俺ら出ないほうがよかった、?』 何がなんだかわからなくなってボロボロと涙が溢れる。 嗚咽を漏らしながら必死に首を横に振った。 その日の授業、私のクラスはほとんどが自習になった。 先生がクラスメイトを1人ずつ呼び、話をする、ただひたすらそれの繰り返し。 教室の空気は最悪で、全ての事の発端である私からしたら本当に申し訳なかった。 ―――そしてその日、彼女は教室に戻ってこなかった。 帰りの会後に再び先生に呼ばれた私は泣き疲れていて、質問に答えられる余力なんて無かった。 『私が女に生まれたから。男に生まれていれば彼女はあんなに傷つかずにすんだのに』 そんなことを考えていても結局、(らち)が明かず、家に帰って小さな子供のようにひーくんに泣きついた。 うまく伝わったかわからなかったけど終始、相槌を打ちながら聞いてくれたひーくんの優しさは嬉しかった。 『結優はどうしたい?』 すべてを話し終わった私にひーくんは聞いた。 『…可愛い、よりかっこいい、になりたい…彼女と私が並んで歩けるようにしたい…』 『じゃあやることは1つだな』 そう言ったひーくんは私の手を引っ張って家を飛び出した。
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