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連れられて来たのはひーくんが普段通っている美容院。
『鈴木さーん!この子俺の妹なの!めっちゃ可愛くない?!』
『紘くん、もう少し静かに。確かにきれいな顔してるけども笑。ちょうど俺空いてるし、やらせてもらおうかな』
『え、ほんと?!結優やったな!めっちゃラッキーだぞ!』
『え、あ、うん。そう、なの?』
『鈴木さんこのお店で1番人気の美容師なんだよ』
『どーも〜。そしたら結優ちゃん、こっちに座ってくれる?』
私が特に何を言うわけでもなく、トントンと話が進んでいく。
―――1時間半後。
『はーい、お疲れさまでした。お会計は紘くんが済ませてるからこのまま帰ってもらって大丈夫だよ』
伸ばしていた髪の毛はばっさりと短くなり、ひーくんと同じくらいまで短くなった。
さらに、小学校は校則もないので茶髪に近かった髪の毛はさらに明るい茶色に染めてもらった。
初めて"優等生"をやめた。
ありがとうございました、とお店を出てひーくんと並んで歩く。
『ごめんな、伸ばしてたのに。もしかして嫌だった、?』
『ううん、大丈夫だよ。私のためにありがとね』
ホッと安心したように笑うひーくんはカッコよかった。
その後も日が暮れているの関係なく、ひーくんは私を連れ回した。
新しい靴を買って、アクセサリーを買って、服もメンズ服を購入した。
トータルで4、5万円は吹っ飛んだに違いないと思う。
いくら高校生でバイトしているとはいえ、そんなに使って大丈夫なのか、と聞けば妹の悩みを解決するのも兄の役目だから、と男前の返事が返ってきた。
結局、夕飯も外で食べて、帰宅したのは8時半頃だった。
買ってもらったものを並べ、これで良かったのかと考える。
それでもやったことは変わらないから、と思い買ってもらったものを身に着けた。
私のサイズに合うように買ってくれたメンズ服はダボッとした感じで女子らしい体のラインを隠してくれる。
帽子を被り、アクセをつけ、新品の靴に足を入れる。
鏡の前に立つと、そこには知らない私が立っていた。
ひーくんに見せれば可愛いけどかっこいい、とギャーギャーうるさかった。
これで彼女は私の隣に立ってくれるだろうか。
――――――
次の日、私は何事もなかったように普通に登校した。
教室に入ると、皆からの視線がグサグサと刺さる。
『ゆ、う…?だよね?』
おはよう、よりも先にそう尋ねられた。
『そーだけど笑。どうかした?俺の顔になんかついてる?』
いきなり変わった私を見て皆は何を思うだろうか。
一人称も俺に変えて、真面目な優等生を演じるのもやめた。
『やっば!めっちゃかっこいいんだけど!』
嫌われるならそれでいい、と覚悟していた私の耳にはそんな声が届いた。
『え、あれ結優なの?!』
『男子よりイケメンなのエグすぎ』
『待って、無理、死ぬ。ドタイプ』
っえ…いや、待ってよ、私は皆のために変わったわけじゃないんだけど。
彼女が私の隣を歩けるように、不自然にならないように変わったのに。
わらわらと席の周りに集まるクラスメイトの間を抜け、校舎内を走り回り彼女の姿を探す。
教室には来なくても、保健室に来るかもしれないと、少し期待していた。
―――職員室の前を通るまでは。
『では、以上で退学手続き終了です』
『本当に転校先はクラスの人に伝えなくていいんですか?』
『…大丈夫、です。迷惑かけちゃったのにこれ以上さらに迷惑かけるわけには…』
『先生、大変ご迷惑をおかけしました。娘のせいで本当に申し訳ありません』
校長室から聞こえてきた声は間違いなく、校長と担任と彼女だった。
おそらくもう1人は彼女の母親だろう。
退学…転校先…迷惑…
単語1つ1つの意味は理解できるのにそれが現実とは思えなかった。
足が床についたみたいにその場から動けない。
手先は震え、目からは自然と涙が溢れた。
ガラッという音と共に出てきた彼女と目が合う。
彼女は母親に一言声をかけ、私の方へとやってきた。
『結優ちゃん、だよね?本当にごめんね、私のせいで迷惑かけちゃって…でも私、もういなくなるから。気にしないでいいからね?可愛い結優ちゃんも好きだけど今のかっこいい結優ちゃんもすっごく好き。本当に私の告白聞いてくれてありがとう。…っじゃあね』
一方的に話を切り上げ、駆け足で去っていく彼女の肩は震えていた。
『…っ待って!!!』
慌てて後を追いかけ彼女の腕を掴む。
『告白!嬉しかった!本当にごめん!俺が男に生まれてたら辛い思いさせなかったのに…でもっ!『結優ちゃん!』っ…』
今まで一度も聞いたことがないくらい力強い声で私の言葉を遮った。
『私、結優ちゃんがいてくれる、それだけで幸せだったよ。だからそんなに自分を責めないで。またいつか…どこかで会えたら嬉しいな』
スッと私の手を払いながらニコッと笑って彼女は今度こそ去って行った。
1人で残った廊下は耳が痛くなるほど静かで苦しかった。
何一つ言えなかった。
何一つ守れなかった。
何一つ向き合うことができなかった。
『わ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ー!っごめん、ごめん、ごめんっ!ごめんなさいっ…ほんとにごめん…無力でごめん…』
耐えきれなくて1人その場に泣き崩れた。
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