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しばらく無言で手を引かれたまま歩き、結構距離ができた頃。
「あの…」
声をかけるとハッと振り返り、すぐに下を向きながら慌てて手を離す貴斗。
「ごめんなさい!困ってそうだな~って思ったら勝手に体動いちゃって…大丈、ぶ…?」
下を向いたまま話すのかと思ったら最後の方で顔をあげた。
目をパチパチさせながら驚いたように上から下までじーっと見てくる。
「え…?ゆ、う、…?え、待って、は?かっこよすぎでしょ、やば、無理なんだが。信じらんねぇ。ちょ、待って整理さして」
1人混乱してしゃがみこんでいる貴斗の隣に大人しくちょこんと座り込む。
ようやく理解できたのか顔を上げ、私と正面から向かい合う。
「確認な、本当に結優?ここにきて違ったら俺恥ずかしすぎるんだけど」
「うん、私。さっきはありがとう。知らん人で怖かった」
「いや、それはよかったけど。…え、なんでそんな格好してんの?」
貴斗の言い方は引いている、というより純粋に気になる、という感じだった。
うーん、まだ話す気になれないし心の準備がなぁ…と思わず黙る。
「まぁ話しづらいこともあるよな。話す気になったら話してよ。それまで待ってるし」
黙ってしまった私を見てすぐに声をかけてくれる貴斗。
申し訳ない気持ちもあるけどそれ以上に嬉しかった。
「うん、ごめん、ありがと。…今は無理だけど、絶対いつか話すから…それまで待っててほしい」
「うん、いつまででも待ってるよ」
そう言って微笑む貴斗は眩しすぎて私にとっては神様みたいに見えた。
「ところで結優は何してた?買い物?」
私が持っていた紙袋を覗き込みながら聞かれる。
「うん、そこのお店で新しい服欲しくて買った。貴斗は?」
「俺は友達とここのゲーセンで遊んでた。トイレ帰りで結優見っけたから助けた笑。結優も一緒に遊んでく?その格好なら結優ってバレないっしょ!あ、でも男しかいないからなぁ…」
「いや、さすがに申し訳ないから今日はもう家帰る。男子に混ざって遊ぶのはさすがに気まずいし。でも…ちょっと他の人にバレないか試してみたいとは思うけど笑」
いたずらっぽく笑うと貴斗も楽しそうに笑った。
「じゃあ少し来て!皆他校で誰もわかんないしだろうから!小学校同じだった奴らと遊んでるから」
私が頷く前に手を引っ張りズンズン歩いていく貴斗は探検に出かけるみたい。
「てか、痩せた?せっかく合宿で普通の食生活になったのにまた戻っただろ?細いのは全然良いんだけど、ちゃんと食えよ?」
言い方が強くなるのは真剣に真面目な話をする時というのをこの3ヶ月で学んだ。
「…だって、お腹空かないし。自分1人分作るのめんどくさいもん」
駄々をこねる子供みたいに言うと貴斗はチラッとこっちを振り返りまた前を向いた。
「じゃあ俺の家来る?午前練だったら一緒に俺ん家来ればいいし、午後練だったら食ってそのまま行けるだろ」
「………はっ?!何言ってんの?!」
引かれる手を思わず振り払う。
「だって結優1人じゃ食べないだろ?なら俺と一緒に食えばいいじゃん?名案だろ〜」
立ち止まった私に構わず歩くこの人は頭のネジがぶっ飛んでいるのだろうか?
びっくりというか、呆れるというか、何というか…
色んな感情を飛び越えて私は考えるのをやめた。
「…じゃあお言葉に甘えてそうするわ。え、てか親に私のこと言ってんの?挨拶無しで家上がるとか失礼すぎない?私の評価大丈夫か…」
「ん?あー親?ふつーに言ってるけど笑。結優の写真母親に見せたら『めっちゃ可愛いじゃん!!いつでも連れてきていいからね?!ご飯とかいつでも作るから!』ってテンション上がってたから大丈夫だと思うぞ」
いや、勝手に見せないでもらっていいですか、?
まぁそれくらい私のことが好きなんだなということにしておこう。
「ありが「あ!貴斗ー!!おっせぇよ!どこの便所まで行ってたんだよ!」…声デカ」
「うっせーな、声デケェよ笑。大声で便所とか言うなし。そんなんだからモテねぇんだぞ笑」
「余計なお世話だわ!てか…それ誰?」
「顔きれーだなぁ」
「ナンパでもしてきた?新しい扉開いちゃった系?笑笑」
それ誰とは…あ、私のことか、というか新しい扉開いちゃった系って何だし。
「お前ら近いわ!中学の俺の相棒ですぅー。買い物してたとこ捕まえた。かっこいいだろ!!」
かっこいいだろって…おもちゃ紹介するんじゃないんだよ、と内心呆れるながら、それは顔に出さず代わりに笑みを浮かべる。
「初めまして。バドミントンのダブルスでペア組ませてもらってる高海です」
下の名前は言うと女子ってバレそうだし…と思い名字だけ告げる。
「…えっ…は、?」
「、はい、?何か?」
「あ!ごめん!君じゃなくて…」
「うん、わかる、言いたいことすごくわかる」
「だよな!!」
「俺もわかるわ~」
「…??」
「高海くん?だっけ。今からって時間ある?貴斗の昔話してあげるよ」
「はぁ?!お前ら何言ってんの!?やめろやめろ!人の過去を晒すな!」
わりとガチギレしてる貴斗を見る限り、まだ私に話してないことがあるんだなと直感で思う。
「いや、大丈夫です。見た感じ貴斗は話したくなさそうなんで。気になりますがそういうのは本人から聞きたいので。お気遣いありがとうございます」
自分なりに精一杯丁寧に返し、軽く頭を下げると「はぁぁぁぁー!!!」とため息なのかキレているのかわからない声が耳に届いた。
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