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「これ落としたよ」
開会式も終わり、そろそろ試合が始まるってなった時。
いつも私がラケバにつけているキーホルダーを誰かがそっと差し出してくれた。
「ありがとうござ…って!ひーくん!?!?何してんの!?」
なんで私のだってわかるんだろう、とか思いつつ顔を上げたら見慣れたひーくんの笑顔が。
「へへーっ!びっくりしたろ?」
ドッキリ大成功!みたいな看板持ち出してきそうな勢いでひーくんは笑っている。
「ひーくん大学は?1人で来たの?」
「今日は休みにしたんだ。いや、佐久村の兄貴と一緒に来た。弟の活躍見たいんだって」
後ろに視線を飛ばすと貴斗に似た人が立っていた。
「なるほどね。というか「結優、そろそろ試合…ってごめん、話してたか…」あ、貴斗」
私達の試合は第7試合。
わざわざ貴斗が呼びに来てくれたし、話を切り上げてベンチに戻ろうとしたその時。
「え…」
貴斗は一点を見つめたまま固まってしまった。
「貴斗?どした?」
「紘さん?だよね、?なんで兄さんと一緒にいるの…?」
固まるのも無理はない。
だって貴斗にとってひーくんは憧れで目標の人で。
そんな人が目の前にいたら誰だって固まるだろう。
「ひーくんと貴斗のお兄さん、仲良いんだってよ〜」
貴斗は私の言葉なんて無視して喋り始めた。
「初めまして!佐久村貴斗って言います!結優と混合ダブルスのペア組ませてもらってて…俺、紘さんが本当に憧れです!!スマッシュ早くて本当に憧れで…」
こんなに嬉しそうに、生き生きと話している貴斗を見たのは初めてだった。
そして勢いよく色々喋る貴斗にひーくんは圧倒されて
「お、おう、そうか」
と若干引き気味になっているのが面白かった。
そこからなんやかんや貴斗とひーくんは話していて、ベンチに戻る頃には試合がコールされてしまった。
「ったく…貴斗がべらべら喋ってるから試合呼ばれたじゃねぇか」
「それはすまんー(棒)」
「ぜってぇ思ってないやつだろ笑」
「あ、バレてる…笑」
「わかるわ、ばーか笑」
試合前とは思えないくらいバカな話をして、最終的にめっちゃリラックスした状態で試合に臨む事になる。
毎回こんな感じだからもはやそれがルーティンになってたりしてるんだけど。
「絶対全部勝って1位通過するからな」
「当たり前でしょ」
地区大会の時と同様にパンッとハイタッチを交わし、私と貴斗はコートへ足を踏み入れた。
――――――
「優勝おめでと!めっちゃかっこよかった!帰ったら撮ったビデオ一緒に見て研究&反省会しよーな」
勝利の女神はどうやら私達に微笑んでくれたようだった。
カウント2-1の接戦だった決勝戦が終わり、ぞろぞろとギャラリーの人たちは帰って行く。
それに流されるようにひーくんも下に降りてきて、私に抱きつきながらそう言った。
「ひーくんの応援すごい聞こえて頑張れた!今日来てくれて本当にありがとぉ!」
汗かいているのなんて気にせず、ひーくんは頑張ったな、と頭をなでなでしてくれた。
そうして私達の挑戦は市大会優勝という結果で幕を閉じた。
次の大会は県大会で3週間後にある。
それまでに細かくしっかりと調製して上を目指していくんだ。
貴斗と一緒に。
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