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県大会
目が覚め時計を見ると5時を指していた。
丁度いい、と思いベッドから起き上がる。
7月の朝の5時はもうすでに東の空が明るくなっていた。
大会の会場まではバス、電車で1時間半くらいかかってしまう。
その前にウォーミングアップをしておきたいので起きる時間は家を出る2時間前ぐらい。
リビングに行きお昼ご飯のおにぎりを握るのと一緒に、家族分の朝ごはんも準備をする。
コトコト味噌汁を作っていると階段をおりてくる音が聞こえた。
振り向くと寝起きでぽやーっとしているひーくんが階段の前に立っている。
「おはよ」
そう声をかけると目を擦りながら
「ん…おはよ、」
と、ひーくんのカラカラな声が返ってきた。
しばらくしてテーブルに朝ごはんを並べていると
「めっちゃうまそう」
と普段のひーくんの声が耳に届いた。
「ちゃんと起きた?笑」
からかうように言えばニコッとしながら
「ばっちり!」
と元気に答えてくれた。
普段の土曜日の両親は1週間の中で唯一仕事が休みなので、2人揃って昼過ぎまで寝ている。
今日もそうだろうと思い、ひーくんと一緒に朝ごはんを食べ、ウォーミングアップの為に外に出た。
近所の公園を軽くジョギングして家に帰ると両親共に寝ぼけながらだけど起きていた。
「えっ…今日仕事休みでしょ?まだ朝の6時前だよ?寝てなって…」
私がびっくりしながらそういうと母さんがモゴモゴと口を開いた。
「せっかく娘の大会なんだから…応援は行けないけど、見送りくらいは…」
そう言って母さんはニコッと笑ってくれた。
普段顔を合わせるほうが少なくて、ほとんど喋ることもない。
だから県大会の日程も伝えることはしなかった。
貴重な仕事が休みの日にわざわざ早起きしてもらうのは申し訳ないし、ゆっくりしてほしかったから。
でもその考えは父さんには通じなかったみたいで。
「なんで教えてくれなかったんだ?紘が教えてくれなかったら寝過ごしていたんだぞ。大事な大会なのになんで親に言わないんだ」
と怒られてしまった。
普段は怒られてもごめんなさい、って言って終わる私だけど今回はなんだか素直に受け止められなくて。
私は父さん達のことを考えて伝えなかったのになぜそんなに怒られないといけないのか?
さっきの母さんへの感動は何処へやら。
私の心はあっという間に怒りに支配された。
でも仕事で疲れている父さんに八つ当たりするわけにはいかない。
そう思って必死に耐えていた。
その時。
「…いつから親に隠し事をする娘になったんだ?紘は大会に出ることが決まったらすぐ教えてくれたぞ。親に隠し事なんてするからなかなか上手くなれないんじゃないのか?」
追い打ちをかけるように父さんはそう吐き捨てた。
県大会という大事な日にこんなことを言われて冷静でいられるはずがない。
きっとここで耐えてごめんなさいって言っても絶対プレーに支障をきたす。
そうなったら貴斗に迷惑をかけてしまう。
そう思った瞬間、私の中で怒りが爆発した。
この後の父さんとの関係なんてどうでもよかった。
というか気にしてる余裕なんてなかった。
県大会の大事な試合に雑念を持ち込むわけにはいかないから。
私は初めて父さんをキッと睨みつけて、これでもかってくらい低い声でブチ切れた。
「黙って聞いてればなんだその言い方!!ふざけんなよクソ親父が!私がどれだけ頑張ってるかも知らねぇくせにどの口が偉そうに説教たれてんだよ!そんなんだから上手くなれない?なにそれ…家族を思って、普段仕事で忙しい…父さんと母さんにっ、ゆっくり、休んでほしくて、っ…そう思って…黙ってたのにっ、…それがそんなに悪いことなの?!私が…考えてることも知らないで…っ…勝手に色々言わないで!!」
最後の方はなぜか涙がポロポロととめどなく溢れてきた。
必死に涙を拭っても拭っても止まってくれなくて。
「結優、落ち着いて。大丈夫大丈夫、息吸ってー吐いてー」
「あなた!言い過ぎ!結優は結優なりに考えがあると思わないの?笑顔で送り出すのが親としての仕事でしょ!?」
更に、ヒートアップしそうなところで母さんとひーくんが仲裁に入ってきてくれてなんとか喧嘩はおさまった。
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