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私とひーくんはリビングに、父さんと母さんは寝室に。
私はソファに座り、ひーくんは私の涙を拭ってくれる、その手が優しくて温かくて。
それだけでさっきの高ぶった感情が落ち着いてくる。
「少しは落ち着いた?」
呼吸が整ってきたタイミングでひーくんの柔らかい声が耳に届いた。
コクコクと頷けば
「父さんと話そう、俺も一緒にいるから」
子供をあやすようにそう言われた。
意を決して寝室に行こう、と顔をあげるとすぐ目の前に父さんの姿が。
「と、うさん…寝室にいたんじゃ、?」
そっちに行こうとしたのに、と言いかければ父さんは腰を90度に折り曲げた。
「すまなかった…」
下げられた父さんの後頭部を見つめること数秒。
やっと状況を理解し、慌てて口を開く。
「私のほうこそ怒鳴ってごめんなさい…親に対する態度じゃなかったのはわかってます…でも、!私は父さん達のことを思って言わなかったんです。それはわかってください…」
そう言うと父さんは頭を上げ少し困ったように目尻を下げて笑った。
「父さんのほうこそ大人気なかった。大事な試合なのに…なんで言ってくれなかったんだ、という思いがどうしても強くなって、な…理由を聞いて恥ずかしくなったよ。自分のことしか考えてない父さんと違って、結優は父さんのことを考えてくれていたとは…
でも父さんの言いたいこともわかってほしいんだ。やっぱり娘の大事な試合は応援したいものだから」
「うん、わかった。次からしっかり報告するね。でも、父さんも母さんも忙しいんだから本当に無理しないでよ?身体を大事にしてほしいから」
父さんの言葉に続けて2人に言うと2人は少し目を潤ませている、気がした。
初めて喧嘩して、初めて真正面から家族に思っていることを伝えることが出来た。
「感動の瞬間のところ悪いんだけど…電車とかバス大丈夫そ…?」
父さんの仲直りできてホッとしたのもつかの間。
ひーくんの言葉で時計を見れば7時を過ぎていた。
乗る予定にしていた電車は6時55分。
私1人ならまだしも貴斗と一緒に行く約束をしてしまっていた。
「あぁー終わった…やばい、やばいよ…?って待って!貴斗!え、待って貴斗どしよ…は、え、待って私のスマホどこ??!!」
慌てて部屋にスマホを取りに行き、通知を見ると貴斗からメッセージ70件、不在着信20件も来ていた。
そりゃそうか、だって大事な試合の日に待ち合わせに来ないし連絡もつかないんだから。
慌てて電話をかけ直すとワンコールもしないうちに繋がった。
「っ…もしも「おい!!!お前今どこいるんだよ?!大会遅刻確定になっちまったじゃねぇか!!いつもはしっかりしてんのになんで今日に限って遅刻してんだよ!!」…」
まぁ、うん、何も言い返せないよね…うん。
「ほんっっっとにごめん!!!ちょっと色々あって…ってそんなことより!大会に間に合わせる方法考えないと!」
「こっちのセリフだバカ!!」
「ほんっとにごめ「結優、貸して」っ…ひーくん、?」
貴斗と言い争ってると後ろからスッとひーくんの手が私のスマホに伸びてきた。
「もしもし、貴斗君」
ひーくんがそう言うとだいぶ離れたところにいる私にも聞こえるくらいの声の大きさで
「紘さんっ?!?!」
と叫んでいるもんだから急がないといけないのに不覚にも笑ってしまった。
「本当にごめんな。親子喧嘩がヒートアップしちゃってさ。それで…良かったらなんだけど今から駅に車で迎えに行くから一緒に乗っていかない?遅れたのはこっちの責任だからせめて送らせてほしい。車で飛ばせば絶対間に合う、というか間に合わせるからさ」
ひーくんは今年で22歳になる。
車の免許は20歳の頃には取っていて、自分の車はバイト代が貯まったって言って中古の車を1年ほど前に購入していた。
「えっ…いいん、ですか…?」
「うん、貴斗君さえ良ければ全然いいよ」
ひーくんが優しい声色でそう言うと貴斗はすぐに
「よろしくお願いします!」
と答えていた。
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