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桜の匂い
そんなことがあってから、真琴は古庄に対して、もう身構えることはなくなった。
身構えることがなくなると、古庄の気さくな性格を前面に感じられるようになって、その端正な容貌もあまり気にならなくなってきた。
困ったときにはお互いフォローし合い、仕事の確認をし合うだけではなく、くだけた世間話にも花を咲かせた。
楽しく会話が弾むときには、真琴も明るく笑顔を見せるようになった。
「そういえば賀川先生って、俺の前任校にいた先生に似てるんだよなぁ」
お互い授業の入っていない金曜日の7時間目、席に着いてお茶を飲む真琴に、古庄が話しかけた。
「……それって、女の先生ですよね?」
真琴の合いの手を聞いて、古庄が吹き出す。
「もちろん女だよ。男なわけないだろ?」
「さぞかし仕事もできて、綺麗な先生だったんでしょうね」
自分に似ていると言われて敢えてそう言ったのは、真琴なりの冗談のつもりだった。
「そう!そうなんだよ。すごく綺麗で可愛くて、スタイルも完璧。仕事も俺なんかよりもずっと出来てたし。日本史の先生だったんだけど」
真琴の冗談に気づいていないのか、古庄はその先生のことを手放しに称賛する。
その褒めっぷりに、真琴は少し突っ込みたくなった。
「……古庄先生。もしかして、その先生のことが好きだったんですか?」
「え……!!」
途端に古庄の顔が赤くなったので、『図星だな』と真琴は思った。
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