第19話 日常の中の非日常

17/88
前へ
/235ページ
次へ
「そんなこともないんじゃないかしら。これまではそんなに夏らしいものはなかったもの」 「そうなんですか? 今までもらったものを教えてもらうことってできますか?」  私がこう聞くと、静子さんは懐かしそうな表情で少しだけ考え込むようにして、ゆっくりと口を開いた。 「最初はこのエプロンね。これは前にも言ったわね」 「そうですね。確か、陸くんが小学校四年生のときでしたよね」 「ここに来たときだよな。あれからもう六年か……」  倉じいは遠くを見るような目でこう言った。  そのときに関するエピソードは、倉じいもきっと知ってるんだよね。 「あとは、湯飲み、日傘、扇子、エコバッグだったかしらね」 「はー、陸のやつ、意外としっかりしてるなぁ」  ほんとにそう思う。  私が中学生の頃と比べたら確実に立派だ。 「哲夫さんとか四季くんからの入れ知恵なのかと思ってたけど、違うのかしら」 「湯飲みに関してはアドバイスしたかもな。食卓で使うものはどうだって言ったことがある気がする」 「それ、今も使ってるあれですか?」 「そうね。もらったものは全部、今も大事に使ってるわ」 「扇子と扇風機の使い分けが難しいな」 「そうなのよね。私は扇子でよかったんだけど、あれも使ってみると便利っていうか、思っていた以上に涼しくなるのよ」  話を聞きながら、真似できるものはないかを考えた。  食卓で使うものはすでにいくつかあげているけど、日傘とか扇子ってどうなんだろう。男の人だって使わないことはないよね。
/235ページ

最初のコメントを投稿しよう!

17人が本棚に入れています
本棚に追加