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「何か用があったんだろう?」
まずは電話のことを話そう。
何も事件なんて起きていないことを伝えないと。
「そうですね。今度の木曜日に仕事の関係でこっちに来るらしくて、都合が付くなら顔を出せないかって」
早い話が、久しぶりに父親に会うことになったというだけだ。
なんてことのない話とわかったのか、倉じいは安心したような表情を見せておせんべいに手を伸ばす。
「木曜ってことは、明後日か。莉亜も仕事がある日だな」
「はい。なので、仕事帰りに食事をしようってことになりました」
「うちで食べるのか?」
ものすごく自然な流れでこう聞かれて、私の思考は一瞬だけ停止した。
その発想はなかった。
「いえ、まだ決めてないですけど、浅見駅か大里駅の近くにしようかと」
浅見駅は私の職場があって、大里駅はここの最寄り駅だ。
どちらも駅周辺のことしか知らない。
「そうかそうか。せっかくだから、日本酒のうまい店にでも行ったらいいんじゃないか」
倉じいはすぐにこう言ったから、ここで食べるっていうのは冗談半分だったのかな。
それはそれでよさそうだけど、さすがにまだ早いっていうか、心の準備が間に合わない。
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