第19話 日常の中の非日常

4/88
前へ
/235ページ
次へ
「何か用があったんだろう?」  まずは電話のことを話そう。  何も事件なんて起きていないことを伝えないと。 「そうですね。今度の木曜日に仕事の関係でこっちに来るらしくて、都合が付くなら顔を出せないかって」  早い話が、久しぶりに父親に会うことになったというだけだ。  なんてことのない話とわかったのか、倉じいは安心したような表情を見せておせんべいに手を伸ばす。 「木曜ってことは、明後日か。莉亜も仕事がある日だな」 「はい。なので、仕事帰りに食事をしようってことになりました」 「うちで食べるのか?」  ものすごく自然な流れでこう聞かれて、私の思考は一瞬だけ停止した。  その発想はなかった。 「いえ、まだ決めてないですけど、浅見(あさみ)駅か大里(おおさと)駅の近くにしようかと」  浅見駅は私の職場があって、大里駅はここの最寄り駅だ。  どちらも駅周辺のことしか知らない。 「そうかそうか。せっかくだから、日本酒のうまい店にでも行ったらいいんじゃないか」  倉じいはすぐにこう言ったから、ここで食べるっていうのは冗談半分だったのかな。  それはそれでよさそうだけど、さすがにまだ早いっていうか、心の準備が間に合わない。
/235ページ

最初のコメントを投稿しよう!

17人が本棚に入れています
本棚に追加