第19話 日常の中の非日常

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「母の日にはカーネーションを送ったんですけど、父の日って毎回どうしたらいいか悩むんですよね」  ここに来る前までも、母の日には毎年カーネーションを用意していたから、家を出て最初の母の日もこれまでと同じようにした。  母も喜んでくれたし、これからも続けていこうと思う。  それに対して父の日は、毎年デパートとか大型スーパーとかの特設コーナーで目についたものを買っていた。  ネクタイやタンブラー、パスケース、サンダルなど、家にいるときは父が普段から使っているもの、あるいはあったらよさそうなものを用意していたけれど、今は離れて暮らしているから何がいいかを吟味しづらい。  こんな感じに、私のこれまでの傾向を話すと、倉じいは「親孝行だなぁ」とひとこと感想を漏らしてお茶を飲んでから、少し間を置いてこう言った。 「気持ちを込めて贈れば、どんなものでも喜んでもらえるだろう」 「それはまぁ、そうなんですけど、せっかくだから本当に欲しいものをあげたいじゃないですか」 「だったら、何が欲しいのかって直接聞いたらいいんじゃないか」 「えぇ? 聞いちゃっていいんですか?」 「いけないことはないだろう。あんまり聞かないがな」  本気なのか冗談なのかがわからない。  でも、やっぱり直接聞く気にはなれない。
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