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1 ユーリとジーノ
春の国と呼ばれるメーファ王国。
この国は建国の王様が魔法使いだった為、魔女や魔法使いも他の国と違って冷遇されることなく、普通の人々と共に薬師や医者のような役割を熟しながら平和に暮らしている珍しい国である。
黒いとんがり帽子と黒いケープは魔女の証。
長い白いローブは魔法使いの証。
ケープやローブの内側にメーファ王国の紋章が刺繍された国からの支給品だ。
それらは身分証明書の役割を果たす大切なものであり、これを身に纏うことで王国に属している善良な魔女や魔法使いであることを示すのだ。
×××××××××××
ユーリはメーファ王国の王都に近い森に住む薬師魔女だ。
今日は2ヶ月に1度の国王騎士団に納品の日である。
明るい日差しのもと黒い大きなつばのとんがり帽子と肩を覆うケープを纏って、自作のポーションを届けて空になった籠を手に散歩がてら歩いて自宅ヘと帰っている途中だ。
銀色に輝く豊かな髪の毛は緩やかに波打っていて背中を覆う位長く、金の瞳は奇麗なアーモンド型で猫みたいに負けん気の強さを表すようにキラキラとしている。
ツンと少しだけ天向いた小さな鼻梁とピンク色でツヤツヤの唇と薄バラ色の頬も相まって若干の幼さを強調する。
背がとても低いせいで子供扱いをよくされてしまうが、成人後のれっきとしたレディである。
『なあなあ、ユーリ、箒で空から帰ったほうが早くないか?』
一緒にポテポテと歩く黒猫が足元から鼻唄を歌いながら歩く魔女に声をかける。
「何言ってるのジーノ? 今日は一ヶ月分の食費が手に入ったんだからお仕事はお休みでしょ? そんなに急いで帰らなくてもいいじゃないの。偶にお日様に当たって散歩しないと、モヤシになっちゃうわよ」
『モヤシ・・・あの豆から出たヒョロイのか?』
「そうそう。日に当たらない場所で伸びて真っ白でヒョロヒョロしてるでしょ、だから日に当たらないとあんなになっちゃうわよ」
ニコニコと笑いながら上機嫌でラベンダー色のワンピースの裾を翻しながら川辺りの小道を自宅のある森を目指して歩くユーリの言葉に、何故猫がモヤシになるのか分からないジーノが首を傾げる。
相変わらずこの主人の言うことは頓珍漢だ、と首を振ると赤いリボンに付いた鈴が小さくチリンと鳴った。
並んで道端に咲く花を眺めながらノンビリ歩いていると、突然風が強く吹いて来てユーリの帽子が飛びそうになり慌てて彼女は両手でつばを押さえてやり過ごす。
「ひゃあ・・・ びっくりしたわ、何? さっきの?」
過ぎ去った強い風を見送るように自分の後ろを振り返る小さな魔女。
『何だあの風? 変な魔力を感じたぞ』
黒猫のジーノが髭をピクピクさせて主人とお揃いの金色の目をパチパチさせる。
2人・・・ いや、1人と1匹は思わずお互いに目を合わせた後で周りを見回し、ふと河原に目を向けた。
『「あ・・・」』
穏やかな春の水の流れる川辺に粗末な身なりの人が倒れているのが見える。
「ひえっ!? 死体?」
『土左衛門か?』
主従は揃って悲鳴を上げた。
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「頓珍漢」→わけがわからない、つじつまの合わない事。
「土左衛門」→水死体。
です(。・ω・。)ノ♡
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