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私の意識がはっきりした時、窓の外は夜だった。豪勢な部屋のベッドに横たわった私は、何の覚えもないまま薄暗い部屋の大きな窓から顔を覗かせる月を見つめる。
窓際には、赤い薔薇が2本だけ花瓶に立てられていた。
「気が付いた?」
昼間に聞いたその声より数倍も甘い問いかけに体の奥が熱くなるのを感じた私は、ゆっくりと声のする方へ顔を向ける。
「ここは……?」
私の問いかけに答える代わりに、彼はベッド脇の椅子から体を起こして私の唇を奪う。彼が掛けている眼鏡が冷たく私の鼻筋を撫で、絡ませた舌から伝わる微熱に私は身震いした。
そんな私を見透かした様に彼は私の上へ覆い被さると、意識を落とす寸前まで嗅いでいた花の香りが頭をひりつかせ、媚薬の様に私を捕える。
「何も考えなくていい」
彼は自らの手で眼鏡を取ると、男になった。
長い接吻に息が上がった私を責め立てる様に、彼はシャツの裾の間から私の脇腹を弄る。ゾクゾクと子宮を這う快楽に堪えかねた私は、漏れ出るはしたない声で彼を止めるも、彼は口の端を吊り上げて「もっと」と囁く。
強張っていた神経は急速に惚け、身体に力が入らなくなった私を見届けた彼は、シャツのボタンを上からひとつひとつ丁寧に外す。露わになった首筋から口付けをし、鎖骨をなぞりながら徐々彼の舌は切なげに私の胸の輪郭をなぞり、嬲るように吸い上げる。
全身が痺れるほどの刺激と期待に先を赤く腫れさせた私は、彼を誘う様に焦点の合わない目で見つめる。
「どうして欲しい?」
爛々と輝く彼の瞳は、薄暗い室内の月明かりの様にさえ感じた。
「触って……もっと、深くまで」
喉の奥から飛び出した言葉は、いつも使っている私の声じゃない。猫の声に蜂蜜をかけたような──そんな甘く悩ましい声。
それに満足したのか、彼は私の先を口に含むと舌先で転がす。溶け出したアイスクリームを掬うように丁寧に彼の舌が這うだけで、私は蜜を溢れさせた。
「可愛い」
再び私の耳元でそう囁く彼は、赤く染め上がった耳朶を甘噛みすると、私の花弁に手を触れる。
水の音がする。
それは紛れもなく、私という花から溢れて流れた蜜の音だ。
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