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ささやかなパーティー 2
マンションのリビングで、立食パーティー風にするのは壱成の提案だった。
ソファと食卓テーブルの椅子、丸椅子も出せば全員腰もかけられて、すごくいい感じのパーティー風になった。さすが壱成。やるな。
飲み物も冷蔵庫とキッチンに勝手にご自由に。引越したばかりで空っぽの冷蔵庫が、いまは酒でいっぱいだ。
ワイワイ食べて飲みながら、みんなが面白がって俺たちが結婚にいたるまでの話を蓮くんに話して聞かせていた。
蓮くんの反応、ほんと最高に面白い。
「……はぁ。なんか俺、すごく感動しちゃいました。京さん、榊さん、本当におめでとうございます」
目に涙まで浮かべてお祝いをしてくれる。「さんきゅーな」と俺がお礼を伝えると、壱成が俺の横で破顔した。
「蓮くん、本当にありがとう」
それ、みんなに見せないでって言ったやつーっ!
蓮くんは「うわぁ、榊さんが……うわぁ、すっごい幸せそう」と顔いっぱいに感動を表現して、みんなも同じように「うわぁ、うわぁ」とさわいでる。
ほんと先が思いやられるな……。
話のキリがいいところで、秋人が「はい、じゃあ、みんな注目!」と声を上げた。
「なになに」
「なんだそれ?」
ソファに座る俺と壱成の目の前に、カラフルな紙が数枚テーブルに並べられた。
「婚姻届、まだ書いてないだろ?」
秋人の言葉にポカンとなった。
「は……? だって書いても出せねぇじゃん……」
「いまは記念用に書いて部屋に飾る人もいるんだってさ。これはそれ用の婚姻届な。ネットから印刷できるんだよ」
あ、だからカラフルなのかと納得した。
チャペルの絵が書かれていたり、雲の柄や新緑の柄。いろいろな柄の婚姻届が並んでる。
壱成は感極まったように涙を滲ませ、婚姻届に手を伸ばしてゆっくりと撫でた。
「秋人……わざわざこんなにたくさん印刷してくれたのか」
壱成の言葉に、秋人が突然爆弾を落とした。
「いや実はこれ、俺たちのときに余ったやつ。ははっ」
俺と壱成とリュウジは目を見張って、蓮くんは驚愕の表情で秋人を見た。
他のメンバーは「俺たちのときって?」とざわついた。
「あ……秋さん……?」
蓮くんが、狼狽しながら秋人の腕を取る。
「蓮」
秋人は蓮くんの手に自分の手を重ね、真剣な表情で言葉をかけた。
「ここにいるみんなはさ。京と榊さんの結婚を心から祝ってる。絶対に誰にも漏らさない。だからさ……」
その先は言わなくても蓮くんにも伝わったようだ。
きっと秋人はメンバーみんなにずっと言いたかったんだ。なかなか言えることではないが、隠し続けるのもつらかっただろうな、と秋人の気持ちを思うと胸がつまった。
蓮くんはなにも言わずに、ただうなずいた。
すると、秋人がポケットから何かを取り出す。
「あっ」
蓮くんが驚いた声を発してそれを見た。あれはきっとリングケースだな。
「どうしても今日、みんなに報告したくてさ。蓮は絶対いいって言うと思って」
「……だめって言う理由がないもんね?」
「ふはっ。だろ?」
秋人がケースを開け、二人は指輪を左薬指にはめた。メンバーがそれを見て「え?」「は?」と言葉をこぼす。
「実は俺たちも、結婚してるんだ」
秋人の告白に一瞬部屋がシンと静まり、そしてすぐに叫び声が上がった。
「マジかよっっ!!」
「はぁーっ?! 嘘だろっ!! いつからっ?!」
「あっ、やっぱそういうことっ? そうじゃねぇかなって思ってたーっ!」
「はっ? お前気づいてたのっ?!」
「いやさすがに結婚はびっくりだけどな?」
「えーすげぇお似合いー! さすがニコイチー!」
大パニックだな。壱成を見ると、どこかあきれたような、でもどこか優しげに秋人を見てた。
そうだよな。秋人の気持ち、痛いほどわかるもんな。
「こんなこと言えるはずねぇしなってずっと思ってた。でも、京と榊さんのことを知ってもなにも変わらないみんなを見てさ。俺もちゃんと報告したくなった。……まぁ、そういうことだからさ」
「なんだよっそいうことってっ! こんのっ! お前らもついでにお祝いだコノヤロウッ!」
秋人と蓮くんがみんなにもみくちゃにされて、でも幸せそうに笑ってて、やっぱPROUD最高だなと俺は再確認した。
「てかなんで三人落ち着いてんの?」
俺と壱成とリュウジを見て、二人をいじり倒していたみんなが不思議そうに動きを止めた。
「あー、俺らは知ってた。……てか気づいちゃってさ?」
俺が暴露すると「はぁっ?!」とみんなが怒り出す。
「なんで言ってくんねぇんだよっ!」
「言えるわけねぇだろ。俺らだって、うっかりしてなきゃ言ってねぇよっ!」
みんながいることにも気づかずにプロポーズとか、うっかりしすぎだけどな。
「男同士って、普通そういうもんだろ。みんな隠してんだよ……」
俺が言葉をこぼすと、みんなが口々に声を上げた。
「いやほんと日本って遅れてるよな?」
「海外じゃ普通なのにな?」
「でもさ。最初からそれ全面に出して売れてるタレントだっていっぱいいんじゃん? 後出しはだめみたいな空気、意味わかんねぇよな?」
「ほんとそれなー」
「なんかさ、LGBTQの人達に俺らができることねぇかな?」
「なんかそういう活動やりてぇよなっ!」
みんなの意見がぽんぽん出てくる。それが全部いつも俺が思ってることと同じで思わず笑った。みんな本気で言ってるとわかるから余計に嬉しくて笑いが止まらない。
「いやいや、俺らこの四人守んなきゃだめなのにそれやっちゃだめだろ。ヒントあげるようなもんじゃん」
「うあーっ! そっかーっ!」
ふいに壱成が俺の手に指を絡めてきた。
入院中、さんざんみんなの前で手を繋いだから、どうやら今日は手繋ぎ解禁らしい。
「本当に、PROUDは最高だな」
壱成が嬉しくてたまらないというように表情を崩す。
「……うん。マジで最高。ほんと俺、ずっとPROUDでいたい」
「歌って踊れなくなるまでPROUDだろ?」
「……うん。そうだよな」
「PROUDが終わったあとは、ずっと二人でいような」
「壱成……っ」
たまらなくなって抱きしめた。
みんなの前なのに壱成は俺を止めなかった。
みんなの歓声と口笛が部屋に鳴り響く。
「もう一生、死ぬまで二人でいような」
「絶対だぞ?」
「あっ! だめっ! 死んでも天国まで追いかけるからっ!」
俺の腕の中で壱成が嬉しそうに笑った。
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