ささやかなパーティー 4

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ささやかなパーティー 4

 USBを手に戻ってきた壱成に、秋人がすかさず問いかけた。 「榊さん、その動画いつもらったんですか?」 「いつ……って……結婚式のあとすぐだ」  壱成がわずかに言い(よど)んだ。秋人の話が本当なら、すぐにもらったというのは嘘だ。秋人と顔を見合わせる。ほらな? と秋人の目が笑った。  テレビに結婚式の映像が映し出された。  みんなは大興奮で、歓声と口笛、そしてときどき笑い声がリビングに響き渡り、秋人と蓮くんは二人で羞恥に耐えるようにうつむいた。  リングピローの場面になり、俺は隣に座る壱成をそっと観察した。  目を細めてクッと笑いながら、俺に愛をささやく時と同じ表情で『リングピローでしゅ』を見ている。  俺は壱成の耳元に唇を寄せて問いかけた。 「これが見たくて動画もらったの?」 「は……」 「蓮くんのマネージャーが、二人の身内にしか渡してないって言ってたってよ?」  壱成があきらかにうろたえた。 「図星?」  壱成がグッと言葉を詰まらせて薄く頬を染める。 「顔に図星って書いてある」  俺が笑いを漏らすと、壱成は諦めたように表情を緩めた。 「……どうしても……可愛いお前をもう一度見たかったんだ」 「へえ? じゃあ見たのは一回だけなんだ」 「……お前、意地悪だぞ」  初めて見るかもと思うくらいに壱成の顔が真っ赤だ。  ごめん壱成。可愛くて、からかうのをやめられない。 「意地悪ってことは、何回も見たの? 俺のとこだけ?」 「…………み……見たよっ。見たっ。お前のとこだけ何回もくり返して見たよっ。これでいいか?」 「壱成、マジ可愛い」  顔を真っ赤にした壱成の唇に優しくキスをした。  みんなは秋人の誓いのキスに釘付けで、俺たちには気づかない。  甘えるようなキスを返してくる壱成が可愛くて、もう本当に愛おしい。  秋人の結婚式も見終わって、みんな大満足でパーティーはお開きになった。  いいって言ったのに、みんなが片付けも洗い物も全部やってくれた。  マジでPROUD最高っ。 「榊さん! おじゃま虫は帰りますっ!」 「榊さんっ、京をよろしくお願いしますねっ!」 「榊さんっ、ほんと幸せになってくださいねっ!」  俺もいるのにみんなは壱成にだけ声をかけ、俺にはニタッとした笑みを投げかけてくる。 「榊さん、こいつほんっと良い奴だからっ! 俺が保証するからっ!」 「榊さん! 今日マジ可愛かったっす! やばいっす!」 「おいっ?!」  なに言い出すんだよっ。俺は慌てて壱成を背中に隠すように前に出た。 「心配すんなよー。もうお前のものだってわかってるって。ただ可愛かったなーってだけだってっ」  それが大問題だろっ! 「京、こんなのただの酔っ払いだって。気にすんな」  リュウジが酔っ払いを押しのけ前に出た。 「京、榊さん、ほんと結婚おめでとう。なんか想像してたのよりずっと甘々で幸せそうで安心したわ」 「だろ? 俺らめっちゃ幸せだから。な、壱成」 「ああ。本当に幸せで、なんだかまだ夢みたいだよ。今日はありがとな」 「いやーもう、ほんっと、お幸せにっ」  リュウジが秋人にバトンタッチをして、今度は秋人と蓮くんが並んで前に立った。 「京。ほんといろいろあったけど今が幸せそうでマジよかった」 「秋人。ほんと感謝してる。ありがとな」 「それから榊さん、前に誤解して怒っちゃって本当にすみませんでした。ずっと謝りたかった」 「なんだよ、そんなの気にするな。それに……俺もお前に嫉妬したんだ。すまん」 「あ、やっぱり嫉妬してたんだ」  クスクス笑いながら、また「ほらな?」と俺にドヤ顔をする。  蓮くんが、俺と壱成の手を取ってぎゅっとにぎった。 「榊さん、京さん、本当におめでとうございます! すっごく仲が良くて初めて見る榊さんがいっぱいで本当にびっくりしましたっ! 俺、仲間? っていうか……そういうの初めてなんで、今度四人でいろいろお話したいですっ!」  そうか、蓮くんは本当に仲間なんていなかったよな。壱成のことも今日初めて知ったしな。 「うん、今度四人で飲もうよ。絶対」 「はいっ! ぜひっ!」  みんなが「じゃあなー!」とぞろぞろ玄関を出て行く中、リュウジが俺に近づいてこっそり耳打ちした。 「俺、わかっちゃったわ」 「なにが?」 「受けは榊さんだろ」 「……っ、はぁっ?!」  ぶはっとリュウジが吹き出した。 「やっぱりな。お前、嘘うまいのか下手なのかわかんねぇな」  ゲラゲラと笑って「みんなには黙っとくな」と手を振って帰って行った。  嵐が去った。そんな感じでシンと家が静まり返った。 「……終わったな。なんか……うん。パーティーやってよかった。……すげぇ楽しかったな?」 「そうだな。でも……」 「ん? でも?」 「……やっと、二人きりだな」  壱成が俺の肩にトンと頭を乗せた。  最近ほんと素直に甘えてくれるようになって、俺の心臓が壊れないかと心配になるほどだ。 「二人きりになりたかった?」 「……なりたかったよ」  なんだよもうっ、可愛すぎるだろっ。 「酒が入るとだめなんだ……」 「だめ?」  頭を優しく撫でると、壱成が俺の首元に顔をうずめた。 「お前に甘えたくて仕方がなくなる……。それに、今日は結婚指輪に婚姻届に……幸せすぎてな……」 「わお。いいこと聞いちゃった。甘えてもらえるなら毎日酔わせっかなー?」  俺が企むように言うと壱成がふっと笑った。 「なら……これからは酒がなくてもいっぱい甘えるかな」 「そうそう。いくらでも甘えろな?」  壱成がクスクス笑って俺を見て「そうする」と嬉しそうに破顔した。 「……あのさ。結局みんなの前でいっぱいキスしちゃったけどさ。今日愛し合える?」 「…………まぁ、仕方ないな」  その言い方に笑ってしまった。素直じゃない壱成も可愛いから参る。 「じゃあシャワー入ろ」 「……よし入ろう」  壱成が俺の手を引いて歩き出す。グイグイと引っ張って早足で歩く。まるで待ちきれないと言わんばかりに。  
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