【エピローグ】恋が友情の境界線を超えた時

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【エピローグ】恋が友情の境界線を超えた時

 今日は久しぶりに千鶴と二人で女子会をしている。カジュアルな居酒屋の個室で、けれど程よく騒がしさも感じるのがちょうど良い。  私が沈んでいた理由も、その後颯太と想いが通じ合ったことも、千鶴には直接報告したかったのだ。 「あずさ、本当によかったね」  ほんのりと目尻を赤く染めて、まるで自分のことのように喜んでくれている千鶴を見て、なぜだか泣きそうになった。  乾杯をして、お互いの近況について報告しあう。 「あずさは、紺野さんと結婚して一緒に暮らすの?」 「実はね、まだ結婚は先でもいいかなぁって。一緒に暮らすための家は探してるんだけど、入籍はちょっと心の準備が…」  颯太はいつでも、今すぐにでも、という雰囲気だったが、私が思わず怯んだ。  長らく友達として過ごしてきたのに、恋人になった途端に今度は夫婦になるだなんて、流れが早すぎて怖くなってしまった。 「あたし、いつから友達としてじゃなくて、恋愛としての好きになってたのかな。やっぱりはっきりとは分かんないや」  初めて告白された時に、一気に傾いたのだろうと予測はできる。そこも含めて、短期間での気持ちの動きが大きすぎた。 「あずさ、あまり恋人と長続きしないって悩んでた時期があったでしょう?」 「うん、半年持てばいい方だった。それもあるから余計に慎重になっちゃうのよ」  今まで、ひとりの人と長く付き合えたことがない。颯太の心変わりを疑っているわけではないし、私の気持ちも変わらないと確信できる。  でも、失敗ばかりを重ねて、成功体験に乏しい私は、うまく未来のイメージを描けない。不安は、信じたい気持ちを簡単に超えてくる。 「あずさはずっと紺野さんと友達で、よく会ってたんだっけ?」 「うん、お互いフリーの時はね」 「てことは、恋人がいる間は会ってなかったってことだよね」 「うん、そうだけど」 「……そのせいじゃない?」 「ん?どういうこと?」  私がいつも振られていたのは、身体が反応しなくなってしまうからだった。颯太とは関係ない。   「この前、樹が約二週間、仕事で家を離れてたのね。最初は、たった二週間くらい別にどうってことないって思ってたんだけど……」  千鶴が、ほんのりと頬を染めながらゆっくりと話し始める。 「最初は本当に全然平気だったんだよ?でもね、だんだん寂しくなってくるの。足りなくなってくるの。それで、ふとした時に思うの。『樹は今頃なにしてるのかな?』って」  千鶴が惚気話をしてくるなんて、とても珍しい。 「気が付いたらね、だんだん樹のことを考える時間が増えていって、ひとりでテレビ見てても『樹だったらここで笑うだろうなぁ』とか……」  私がニヤニヤしてるのに気が付いて、千鶴の顔が見る見るうちに朱に染まっていく。 「つまりね!何が言いたいかっていうと!」  私の視線を払うような仕種でぱたぱたと手を振りながら千鶴が語気を強めるから、慌てて真顔で聞く姿勢に戻る。 「あずさも、そうだったんじゃないかなって。会わない期間が長くなるにつれて、紺野さんの成分?みたいなものが足りなくなって、余裕がなくなっちゃったんじゃない?」  急な話の方向転換に、何を言っているのだろうかと驚いた。 「いやいや、まさか!そんなの全然関係な……」  笑って流そうとしたけれど……。  関係ない、とも言えない?
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