第一話 出会い

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ユカとの出会いは、中学一年生の時。 今は私たちは高校二年生だから、もう五年の付き合いになる。  私たちが住んでいるところは田舎で、中学校も生徒が少なく、二クラスしかなかった。  当時の私は、中学校になかなか馴染めずにいた。 小 学校までは男女の分け隔てなく誰とでも仲良くできたのに、中学生になった途端,周りとのギャップに悩むようになった。  みんな,急に大人になってしまったーーそんな風に感じていた。  私は子供の頃から漫画やアニメが大好きだったから、いつも友達にその話ばかりしていた。それなのに、小学校高学年にもなると、周りの友達は,オシャレとか恋愛とか、別のことにもっと関心を持つようになっていった。  中学に入学すると、それはますます顕著になった。 男子は急に悪ぶりだして、女子はおしゃれに精を出すようになった。  急に変わってしまった友人達に、漫画やアニメの話はしづらくなった。そして、その話題を封じられたら,何の話をすればいいのかわからなくなった。 気付けば,私は周りからすっかり浮いてしまっていた。  気が合う友達もできず、つまらない日々を送っていた。しかし、転機が訪れた。  放課後に委員会の集まりがあったある日のこと。 さっさと帰ろうと支度をしていたら,私は突然話しかけられた。 「ねえ、麻生さんのカバンについてるキーホルダー、日曜の朝にやってるアニメのキャラだよね?」  その声に驚き、私は慌てて顔を上げた。  目の前には、猫のような切長の目をキラキラと輝かせて,真っ直ぐこちらを見ている女子がいた。 私はびっくりしすぎて、すぐには返事ができなかった。  彼女は同じ委員会で、隣のクラスの,土田ユカ。  委員会の集まりの時も,いつも誰かと楽しそうに話している印象の子だ。  明るくて友達が多くて、みんなの中心にいるような存在だったユカは、私とは違う世界の住人だと思っていた。  同じ委員会だけど一度も話したことはなかったから,話しかけられて、ものすごくビックリした。  アニメや漫画が好きそうな雰囲気でもなかったから、おそらくマニアックであろうアニメを知っていることにも驚いた。 「ねえ、そのアニメ,好きなの?」  内心戸惑っている私などお構いなしに、ユカはさらに話しかけてきた。私は挙動不審になりながらも、「うん」となんとか声を絞り出して言った。  ユカはそれを聞き、心底嬉しそうな顔で微笑んだ。 「良かったー!私の他にも好きな人いたんだ!みんな子供向けアニメだってバカにするけどさ、話がしっかりしてるし,めっちゃ面白いよね!?」  そう生き生きと語るユカの姿に,私は呆気に取られて言った。 「土田さん、アニメとか見るの?」   ユカは笑顔で答えた。  「全然見るよ!漫画も超好きだし」  驚きながらも、私は嬉しくなった。  でも、人目憚らず堂々と話すユカに対し,私は挙動不審になってうまく話すことができなかった。  中学に入ってから,いわゆる「オタク」を馬鹿にする人たちもいるのだと知ったから。  小学生の時は私とも漫画の話をしていた友人が、中学生になった途端、「オタク」と言って笑っているのを見てしまったことがある。  それ以来、人前で漫画やアニメの話をすることは控えていた。  けれどユカは、周りの目なんて気にせずにアニメの話を続けた。 「土田さん、……その、恥ずかしくないの?」 「何が?」 「その……アニメの話をすること」 「なんで?」 「なんでって……、その、オタクだと思われちゃうよ」 「思われちゃうってか、オタクだし」  そうあっけらかんと答えるユカが、輝いて見えた。  何が恥ずかしいのか全くわからないーー本気でそんな顔をしていた。  私は久しぶりにアニメの話ができた嬉しさもあったけれど,何よりユカのその人柄に惹かれた。  その日はそのまま一緒に下校して、好きな漫画やアニメの話で盛り上がった。全然話足りなくて、神社の階段に座り込んで話し続け,気づけば辺りは真っ暗になっていた。  それ以来、ユカとはお互いのクラスを行き来して漫画を貸し借りしたり、待ち合わせをして帰ったり、休みの日には遊んだりと、一緒に過ごすようになった。
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