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一度も同じクラスにはならなかったけれど、それぞれのクラスで友達ができても、ユカは特別な存在だった。
他の子とは明らかに違う、安心感のようなものがあった。一緒にいる時に、心から「楽しい」と思えるのは,ユカだけだった。
休み時間はしょっちゅうユカに会いに行ったし、ユカも会いにきてくれた。
そんな付き合いは、同じ高校に進学してからも続いた。
むしろ、中学よりも仲はずっと深くなった。
毎日一緒に帰り、週末はお互いの家に泊まってアニメを夜通し見たり。
ユカは私なんかとは比べ物にならないくらい友達が多かったけれど、それでも、ユカも私のことを特別に思ってくれてるとは感じていた。
それがとても嬉しくて、誇らしかった。
私も、高校に入ってからはユカの他にも友達はできたけれど、ユカほど親しくなれた人はいなかった。
きっとずっと大好きな、一番の親友。
けれど、私は。
ユカに,ひとつだけ隠していることがある。
「あー、やっと読めるー!長かった!」
本屋に着くなり、「新刊」のコーナーに置かれた単行本を手に取り、ユカが言った。
「ユカは単行本派だもんね。早く読んでよー!最新話の展開、ほんとヤバくて……」
「あー言わないで!マジで楽しみにしてるから!今日の夜、読んだら連絡するから!」
そう言って盛り上がりながら、二人でレジを目指す。その途中、あるコーナーにさしかかり、私の体温が上昇するのがわかった。
ドキン,ドキン。
心臓の音が速くなる。
私は視線を両棚に向けないようにして、前だけを向いてユカと会話を続けた。
ユカは何も言わずに通り過ぎてくれるだろうか。
お願いだから、何も言わないでほしい。
両棚に並べられた本。それは、男性同士が見つめ合ったり、抱き合っているような表紙が目立つものばかり。
いわゆる、BLーーボーイズラブを扱うコーナーだった。
私の願いもむなしく、ユカが少しだけ歩みを緩めて、ちらりと本棚に目を向けて言った。
「なんかすごいね、このコーナー」
そう言って笑うユカに、私はぎこちない笑みで返す。
「あー、うん、……そうだねぇ」
「めっちゃキスしてんじゃんね、これとか」
笑いながら指をさして言うユカに、曖昧な笑みを返す。それ以上,話題が広がらないように、注意を払って。
それ以上ユカが何も言わなかったことに安堵し,気づかれないようため息を吐いた。
私がユカに隠している,たった一つのこと。
ーーそれは私が、腐女子だということ。
なぜ隠しているのか。単純な理由だ。
ユカは「オタク」だけれど、「腐女子」ではないからだ。
ユカと仲良くなった頃、私はすでに腐女子だった。「目覚めていた」とでもいうのだろうか。
アニメや漫画に触れるうちに,「そういう世界」があることを知り、気付けばその世界の虜になっていた。けれど、その趣味を誰かに話すつもりもなく,完全に一人で妄想して楽しんでいただけだった。
ユカと知り合ったばかりの頃、私は悩んだ。
「ユカも腐女子なのかどうか」を。
それまでの私はオタク友達すらいなかったから、女性のオタクはみな腐女子なのか、そうではないのか、検討もつかなかったのだ。
しかし、ユカと仲良くなるにつれて気付いた。
"ユカはきっと違う、腐女子じゃない"と。
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