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 シロミちゃんと話していて次第にわかってきたことがある。彼女は女性に対してものすごくネガティブなイメージを抱いていた。  理由はよくわからない。  シロミちゃんのお母さんを知っているけど、私の印象だと別に普通の人だった。  むしろ私の母親の方がヒステリックで理不尽だと思うぐらい。  うちの母親はシロミちゃんのことを嫌っていた。そして遊びにきたシロミちゃんに対していつも塩対応だった。  大人にはシロミちゃんのエキセントリックなところが気に障ったのかもしれないとは思う。小学校の先生がシロミちゃんのことを悪く言うのを聞いたこともあった。  シロミちゃんはコミュ力が高くて、小学生の頃から大人の人に対しても物おじせずにきちんと挨拶できた。  けれども私の母親はシロミちゃんのそういうところも気に入らなかったみたいだった。 「スレていて子供らしくない」とか「うちの子が悪い影響を受ける」とか、私がシロミちゃんと遊んでいるのを見るたびにそんなふうにぶつぶつ言っていた。  だからなるべく私たちはうちから離れた母から見えない場所で遊んだ。シロミちゃんがうちに来るのはなるべくやめにして、私がシロミちゃんのおうちにおじゃまするようにした。  私がシロミちゃんのおうちに行くと、おうちの人はだれもいないことが多かったけれども、お母さんに会うこともたまにあった。顔を合わせたお母さんはにこにこして「いらっしゃい」って言ってくれた。おやつも持ってきてくれた。  シロミちゃんが私の家に来たときは、うちの母はロコツに嫌な顔をするから、私はシロミちゃんのお母さんに対して内心申し訳なさでいっぱいだった。  中学に入る頃には私は母親に対しては、シロミちゃんの名前は意識して出さないようにして、遊びに出るときも共通の知人の名前を隠れみの代わりに使ったりしていた。  中学時代のシロミちゃんのエキセントリックエピソードを2つばかり挙げておく。  1つは宿題のプリント事件。  中学1年のときのシロミちゃんと私は隣のクラスで、その日シロミちゃんのクラスの1限目の授業が数学で、2限目が私のクラスだった。  朝一でシロミちゃんがやってきて宿題のプリントを写させてって言ってきたからあとで返してって言って渡した。そうしたら1限目のときに私の答案をそのまま提出してしまった。名前だけシロミちゃんの名前を書いて。  私、2限目が数学なんだけど。白紙のプリント返されても困るんだけど。  怒りよりも驚きと呆れの方が大きかった。こんなことが平気でできる人間がいるんだっていう発見というか感心というか、未知の世界を垣間見るような心地だった。  もう1つは待ち合わせの時間には必ず遅れて来るというエピソード。そのころ私は携帯を買ってもらってなかったから、待ち合わせの場所にシロミちゃんが来ていなかったら、そこで待ち続けるしかない。  駅のホームで1時間半待ってたこともある。  そんなときでもシロミちゃんは慌てるでもなく謝るでもなく、フツーの顔してやってくる。まるでその時間がもともとの待ち合わせの時間だったみたいな感じで。  映画を見ようとしても時間に間に合わないし、何か予約するような計画を立てると計画は頓挫するので、シロミちゃんと出かけるときは予定は緩めにしておくに限る。  相手が私だったから甘えているのか、ほかの友だちに対しても同じように時間にルーズだったのか不明だったけど、シロミちゃんがだれに対しても遅刻の常習犯だったことはそのうち判明した。
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