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 高校は、志望校が分かれた。私たちはレベルは同じぐらいだけど校風が違うと言われている別の高校に進学した。  私は宿題がいっぱい出ると言われている高校へ。シロミちゃんは生徒の自主性に任せて宿題はあまり出さない高校へ。  ほんとは私はシロミちゃんが大好きだったから同じ高校に行きたかったけど、私たちのお互い以外の交友関係は中学時代からすでにまったく別々だったので、シロミちゃんの世界を尊重しようという気持ちが働いた。  シロミちゃんはちょっと派手なリア充っぽい人たちとのつきあいが多い。ヲタクであることもいつのまにか隠すようになっていた。その分私に会ったときはヲタク話炸裂だったけど。  私には高校で何人かのヲタク友ができた。ゲームヲタとか深夜アニメ全部見てるやつとか漫画に博識なやつとか同人書いてるやつとかいろいろいた。ゲームもアニメも漫画も同人も全部網羅しているツワモノもいた。   高校生活は楽しかった。  宿題がいっぱい出るなんて前評判だったから校則でガチガチの厳しい高校かと思っていたのだけれども、中学校とは全然違っていて、生徒の自主性は案外に重んじられていた。生徒会の活動も活発だった。  ちょうど制服のデザインの変更が計画されていた時期で、生徒の中からアイディアを公募して、新しい制服には生徒の意見も取り入れられた。  といって一緒に制服を決めていったはずの私たちの世代は旧制服のままで、何一つかかわっていない新入生だけがおニューのデザインを着るというオチがついていたけど。  個性的な友人に恵まれた高校生活だったけど、私にとってシロミちゃんはやっぱり特別だった。  心が苦しかった小学生のころと中学生のころを一緒に過ごして、つらい気持ちを打ち明けていた友だちだったから。  私のおうちはとてもとても息苦しかった。  その息苦しさの理由を子どものころの私はうまく言い表せなかったのだけど、シロミちゃんに対しては拙い私の言葉でもなんとなく伝わっていたと思うのだ。  例えばこれはある日のできごとなのだけど。  「新しいダウンジャケットを買ってきてあげるから希望の色を言って」と母親に言われて私は「黄色が欲しい」と答えた。  けれども母親が実際に買ってきたのはピンク色だった。  母親曰く、黄色は可愛くなかったから、とか。あなたに似合う色合いの黄色が置いてなかった、とか。女の子はやっぱりピンクだと思ったから、とか。  言い訳はいろいろとするのだけれど、結果として私の希望は通らない。  洋服の色についてもそうだけど、文房具を始めとする身の回りのものや、食べるものとかも。買い物に行く前にほしいおやつを聞いてくるくせに、なぜか私がお願いしたものとは違うものを買ってくる。  万事が万事、こんな感じだった。  結局選べないなら最初から聞いてこなければいいのにっていつも思ってた。  中学生のとき、もらっていたおこづかいで絵本を買ったことがあった。  カラフルな色遣いのイラストが添えられた外国の作家さんの本で、その絵が好きでずっと欲しかった本だった。  けれども本屋の紙袋を抱えて帰ってきた私に中身をみせてと言った母は、絵本だと知ったとたんに「返してきなさい」と言った。 「絵本は小さな子どもが読むものだから、中学生にもなって買うのはおかしい」と言われ「無駄遣いをするためにお小遣いを渡しているんじゃない」と叱られた。  ずっと欲しかった本なのだといくら説明してもわかってもらえず、返してきなさいの一点張りだった。  仕方なく私は買ったばかりの本とレシートを持って、本屋に引き返した。  こんなことが繰り返されていくうちに、本当に欲しいものは手に入らないのだと、どこかで私は少しずつ諦めていった。  父親は私にあまり関心がなく、家にいても全く会話がなかった。  シロミちゃんからは家族の愚痴は聞いたことはない。お父さんが心の病気を抱えていてお母さんが外に働きに出ていると聞いていたから、本当は私のうちよりも少し深刻な事情を抱えていたのではないかと思うけれども、シロミちゃんはそれについて何か口にしたことはない。  ただ私だけが一方的に、行き場のない辛い気持ちをつらつらと垂れ流していた気がする。  シロミちゃんには伝わっている、わかってもらえているっていう感覚をいつだって私は強く持っていた。その根拠がどこから来たものだったのかわからないのだけれど、多分シロミちゃんは聞き上手だったのだと思う。  家族とうまくコミュニケーションが取れなかった私は、シロミちゃんに対しては饒舌になんでも話すことができた。  だからたとえ宿題のプリントを勝手に提出されても、何時間も待ちぼうけをくらわされても、そんなのは私にとって至極些細な問題だったのだ。
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