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その子は本当はヒロミちゃんという名前だったのだけれど、みんなからはシロミちゃんと呼ばれていた。
理由は色が白くてゆで卵の白身みたいにつるんとしていたから。
小柄で顔は可愛くて、手と足も白くてほんのりふっくらしていて、顔だけじゃなくて全体的にもゆで卵っぽい印象だった。
可愛い女の子を言い表す言葉に「卵に目鼻」っていう言い方があるけど、まるでシロミちゃんのためにあるような言葉だと思う。
シロミちゃんはちょっとエキセントリックな子だった。
私たちは同じ学年で、シロミちゃんと私の家は歩いて5分ぐらいのところだったから、小学校への行き帰りは一緒だった。
私たち2人の間ではそのころしりとり歌というのがブームになっていて、片方が適当なフレーズをまで歌を歌ったら、しりとりでほかの歌を始めて適当なフレーズまで歌う。学校からの帰り道、2人で延々とそれを繰り返した。
けれども私が歌っていると、しばしばシロミちゃんの駄目出しが入る。
「そこ、歌詞が一部間違ってる」あるいは「メロディ違うよ。そうじゃない」
「ええ、どこ? そんな正確になんて覚えてないんだけど」
「正確に覚えてない歌は無効だよ。別のにして」
ジャッジするのは全部シロミちゃんだったから、シロミちゃんの言うことが正しいのか間違っているのかはよくわからないままだった。
そしてシロミちゃんは、私が歌ったときに歌詞が間違っていると指摘して無効にした歌を、あとから自分の持ち駒として出してくる。
なんだかズルいんじゃないかと思ったけど、シロミちゃんには「私が全部正しい」みたいな空気があって逆らえなかった。
しりとり歌はしばらくして飽きた。
どちらが言い出したのか今度は、お話しづくり歌、というのがブームになった。童謡のメロディに乗せて適当な物語をでっちあげてストーリーを展開させていく。歌が終わるとバトンタッチして、物語の続きをもう1人が再び童謡に乗せて進めていく。即席リレー小説の亜種のようなものだ。
小学校から私たちの家まで子どもの足で30分ぐらいかかったから、物語をつくる時間はたっぷりあって、私たちの創作はどんどん進んだ。
当然の成り行きというべきか、高学年のころから中学生になるころにかけて始めたのがリレー小説ノートだった。最初はちょっと可愛い交換日記用のノートに書いていたけど、2人とも大量にページを消費するものだからすぐに100均でまとめ売りしている大学ノートになった。
2人でイラストもどんどんノートに描き込み始めて、これはあまりにもページを取りすぎて非効率だと思ったから、一回の交換ごとにイラストページは1ページだけって決めた。2人ともあんまり守れてなかったけど。
そこで1つ困ったことが起きた。
シロミちゃんは当時某男性アイドルグループのナオトくんが好きで、一日ナオトくんの話ばかりしていて、リレー小説のストーリーもナオトくんがいろんな男の子にモテる、みたいな話になっていった。
いまにして思うと、シロミちゃんはいわゆる腐女子だったんだね。
当時の私には腐女子の傾向はなかったから、このストーリーは面白くない、と抗議した。
ナオトくんが女の子と仲良くする話じゃ駄目なの?って聞いた。そしたらそれは絶対NGって言われたのを覚えてる。
「ナオトの周りにはゼッタイゼッタイ女を近づけないで」
とても真剣な顔でそう言われたので印象に残っている。
しばらくしてシロミちゃんはアキラくんっていう別のキャラクターを作り出した。
「アキラは大人の男だから、女の子と絡んでもいいよ」
シロミちゃんの許可が出たのでどんなストーリーにしようかとワクワクしながら想像を膨らませていたら、シロミちゃんがこんなことを言い出した。
「アキラはバツイチ。別れた奥さんがストーカー気質でアキラにものすごく粘着してくるの。アキラは逃げ回っているから定住できない」
なんだそのヘビーな設定は。
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