怪物と勇者

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あれからどのくらいの月日が経ったのだろう。 外に出された勇者は、いつも見ていた塔をのぼり、怪物のいる場所にたどり着いた。 「君が......醜い怪物だって......?」 「ごめんなさい......ここにいてごめんなさい......」 醜い怪物と言われるそれは、体を小さくして震えながら謝り続けている。 勇者には分からなかった。 どこが、醜いの? だって、目の前のその人は 自分と何一つ変わらない容姿をしているじゃないか。 塔の外では勇者がついに来たと村人の歓声が聞こえる 「やっと来てくれた!」 「これでこの村は安泰だ!」 「勇者なんて生贄みたいなものだろ!もう何も怖くない!」 醜い言葉が、勇者と怪物の耳に入ってくる。 「やっと、私は自由になれる」 震えていた怪物は、覚悟を決めたのかゆっくりと勇者の前に立ち両手を広げた。 「いいよ。私を倒して勇者様」 薄暗い部屋の中に零れる僅かな光に照らされたのは、顔や手足にいくつものアザがあるだけの ただの女の子だった。 アザがある人間は、忌み嫌われる。 勇者は本の中で読んだ事を思い出した。 「僕には君は殺せない。だって、僕だって......」 勇者は顔を隠していたマスクを生まれて初めて人前で外した。 「僕も、おんなじなんだ」 勇者の顔の半分は怪物と同じようなアザがある。 アザがあるだけで何が違うというのだろう。 これだけで何故、怪物と勇者にされるのだろう。 「おん......なじ?」 怪物は掠れる声で勇者に尋ねた。 勇者は頷いて彼女の右手を自分の頬に、そして左手で彼女の頬に触れた。 「君は醜くないよ。本当に醜いのは君をここに閉じ込め続けた村の人。そして、僕を閉じ込めた村の人」 ねぇ、2人で逃げてみようか。 勇者と呼ばれた少年は怪物と呼ばれた少女にささやきかけた。 「うん......逃げ......たい」 「うん!行こう!」 勇者は彼女を抱き抱えて、魔法を唱える。 大きな爆発音がして砂埃が舞う。 湿度の高かった部屋に爽やかな風が通り抜けた。天井を失った塔の上では夜空に輝く大きな月が2人を、村人を同じように照らしていた。 勇者は新た魔法を唱えると、 キラキラと光が背中に大きな翼を生み出した。 村人が何か言っているけど、2人にはもう関係ない。 「ここから、僕たちの物語を始めよう!」
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