怪物と勇者

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かわいそうに あんな酷い怪物の相手に選ばれるなんて 塔には、酷く醜い怪物が住んでいるから近づいてはいけない。 ほら、今夜も聞こえるだろう? 怪物の悲鳴のようなうめき声が 村人は誰もが怪物の住む塔を見上げて、同じ言葉を繰り返す。 いつか勇者が怪物を倒しにくるって村長が言ってたから、きっと大丈夫! 「いつ、来てくれるのだろうか」 塔の上の怪物は、小さな窓から見える青空に憧れながら勇者に倒される日を夢見ていた。 人として生を受けたはずだった。 愛されると思っていた。 生まれた時から、怪物だと言われた。 物心つく頃には、ここにいた。 怪物を閉じ込めるためだけに作られた塔には 窓はひとつしか無かった。 とても小さくて村を見おろすことができないくらい小さくて、そこから見えるのは遠くの山と空。 夜には時々月が見えた。 怪物には月を見るのが楽しみだった。 誰とも話すことが無かったから、声を発する方法を忘れつつあった。 村から聞こえる優しい歌を真似てみたくなって声を出したが、掠れていてまるで悲鳴のようだった。 怪物は、その声で悲しくなった。 泣きたくなった。 自分は、何故生まれたのだろう。 自分は、いつまでこうしていたらいいのだろう 何も知らない。 何も分からない。 知っているのは勇者が自分を倒してくれるという事。 倒してもらえたら、ここから出ることが出来て 「あの青いところに行けたらいいな」 怪物は願う。 勇者の来る日を。
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