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あれが勇者?
勇者の力を授けられた者が「アレ」なの?
物心ついた頃から、周りの大人から自分は勇者だと言い聞かされてきた。
勇者は人に顔を見せてはいけないの。
屋敷の人間にそう言われて、手渡されたマスクを常に付けて生きている。
屋敷の奥の座敷が勇者のために作られた部屋。
過去の英雄伝から魔法の本、武道の本等、ありとあらゆる知識の本が天井高くまでぎっしりと本棚には詰まっている。
魔法も剣も実際に師事してくれる人は居なかった。誰も勇者には近づかなかった。
「勇者なんて名ばかり」
本当に勇者なんて居たのだろうか。
誰も知らない過去の勇者が実在したのかも、全てはこの紙の中に書かれたことが事実だと言う。、
自分のどこに勇者の資質があるのか。
大きな窓の向こうにある、バルコニーにすら出してもらえないちっぽけな名ばかりの勇者は、そこから遠くに見える塔を見つめていた。
そこには勇者が倒す怪物がいるという。
「勇者も怪物も変わんないよ」
お互いに閉じ込められた存在。
本を見て覚えた魔法で怪物を倒して、その後は?
怪物を倒すこと以外のなんにも知らない勇者は、何に憧れたらいいのかすら分からずに、ただ。
ただ、見たこともない怪物を想う。
怪物は、月を見ているだろうか。
怪物はどんな生き物なのだろうか。
自分に、本当に倒せるのだろうか。
自分のいる座敷に来てくれる者など誰もいないから、バルコニーに時々舞い降りる小鳥に話しかけて心の中の不安をなんとか取り除きながら、過ごしていた。
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