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進行と奮闘
満月が空をくり抜き、鋭い月光が夜闇を切り裂いていた。周囲の木々は微かな風にざわめき、明かり一つない路肩には寒々しい空気が漂っている。ここに来るまでに乗ってきた白馬が、つぶらな瞳でこちらを見ていた。
ブラントは、城と呼んでも差し支えないほどの巨大な建物の前に立っていた。
怪異でも出てきそうなおどろおどろしさだが、半分は間違っていない。彼女を攫った憎き連中の根城だった。
彼らは鬼だ。悪魔だ。愛しいイリアーナ姫を奪った、許されざる悪道。それこそが、今からブラントが対峙する敵勢の代名詞だった。
人里離れた山奥にこんな建物を建設したのも、良からぬことをするためだ。彼らがイリアーナに何をするか考えただけで背筋が寒くなる。敵の中には、好色な若い男も多いと聞いた。
「イリアーナ姫。どうか、ご無事で」
眼光鋭く前方を睨み、ブラントはささやいた。ひときわ冷たい風が吹き抜け、短く切った黒髪を揺らした。
数メートル後ろの木につないだ白馬に目を向ける。もう、あの美しい馬に乗ることはないだろう。そう思いながら、ブラントは前へと視線を戻した。
絶対に、彼女を救ってみせる。悪人の手の中で死なせはしない。
ゆっくりと、ブラントは入り口の扉に手をかけた。
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