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濃い赤が床を染めていた。転がる死体を器用に避けながら、ブラントは銃を構えつつ奥へ進んだ。既に建物の奥からくぐもった怒鳴り声が聞こえている。侵入には気づかれていると考えて間違いないだろう。
そのうち、奥から増援がやってくる。最奥に囚われているであろうイリアーナを救うには、全員まとめて倒すしかない。
壁と同化していた引き戸が一気に開け放たれ、銃を構えた男たちが姿を現した。同じく灰色の装備を身に付けている。
銃口は正円だ。統制された動きからするに、先程の初心者連中とはレベルが違う。
奪った銃を構えたまま、ブラントはとっさに這いつくばった。轟音がとどろき、頭上を銃弾の雨が流れていく。体勢が整えにくい。これも戦法の一種だろう。とは言えこの国では、銃が武器としてさして普及していない。
なぜなら、数十年前に製造が停止された銃とは、すなわち前時代の遺物であるからだ。
足音が増えてきた。怒号も響きはじめ、さらに増援が送られてきたようだ。ブラントは腹ばいになったまま銃を隅に勢いよく滑らせた。これより先は、不必要となるものだ。片手を塞がせるには邪魔過ぎる。
ふところに手を突っ込み、片手で扱えるナイフを取り出した。よく研がれた刃が敵の喉をとらえるよう、水平に構える。
イリアーナ姫は、無事だろうか。それはわからない。しかし時間が差し迫っていることだけはわかる。
はやく奥に到達しなければならない。彼女が、手の届かないところに行ってしまう前に。
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