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イリアーナ姫が攫われたという知らせは、瞬く間に国中へ広がった。国の第一王女がヴィラルバージョという組織に攫われたのを見た、そういった証言が相次いでいた。
国王は嘆き悲しんだが、すぐに平静を取り戻した。城中の兵士に命じて捜索隊を組ませ、イリアーナが囚われた敵の根城へと向かわせたのだ。
彼らは兵団を組織してヴィラルバージョのアジトへと向かった。だがそこで、またもやある噂が流れたのである。
***
兵団の長であるユークは、今までにないほどの焦りを抱えていた。身につけた銀の甲冑を揺らしながら、風のように走る栗毛の馬の手綱を必死に繰る。
既に国を出てから、数時間が経過していた。暗い森の中を駆け続け、今にも崩落しそうな崖の側の小道をわたり、再び薄暗い森に入った。
背後に続く兵士らも皆、焦燥を抱えているようだった。当然だ。イリアーナ姫を攫ったのは、この国で一番の悪党集団なのだから。
ヴィラルバージョというのは、この国で最も恐れられている犯罪者の集まりだ。
元は落ちぶれた兵士や食いっぱぐれた放蕩者の受け皿だったのが、次第に日銭のために盗みや殺しを繰り返すようになり、今や国一番の悪党集団と化している。
子供が何者かに攫われた場合、背後には必ずヴィラルバージョの影がある。女が闇夜に襲われるのも、商店が襲われるのも、国の夜を取り仕切りる彼らが関係していることが多い。
そして今回、国の第一王女であり、権威継承者もあるイリアーナ姫が囚われたのには、必ずやヴィラルバージョが裏で糸を引いているに違いなかった。
そもそも、常に護衛がついている王女の居場所を把握し、拐かせるだけの人脈と情報源を持っているのは、彼らしかいない。
馬の蹄が地を蹴り、甲冑と剣がぶつかる音が甲高く響く。金属音と足音は一体となり、兵団を包み込むようにしながら、猛スピードで木々の間を駆け抜けていった。
「イリアーナ王女の婚約者であるブラント王子が、勝手に姫の救出に向かったと噂に聞くが・・・・・・無事だろうか」
ユークは馬をさらにはやく走らせ、闇に包まれた前方を睨みながらつぶやいた。不安がますます心中で膨らんでいく。
確か、ブラント王子は温室育ちで、戦闘などからっきしだったと思うのだが。
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