捕虜と救出

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捕虜と救出

 ユークら兵団の男たちが国を発ってから、数時間が経過していた。人々に忘れ去られた深い森の奥にある巨大な建築物、それこそがヴィラルバージョのアジトだ。  今までは報復が恐ろしく、誰も手を出せないでいた。しかし第一王女が攫われたとなれば話は別だ。  今やユークたちは、剣と盾を構え、かつての戦時中と同じ甲冑に身を包んで彼らの拠点へと馬を駆っていた。 「ユーク隊長、あとどれくらいでしょうか」  蹄の音に混じって、後方から部下の声が聞こえた。ユークは前方を睨んだまま、あと一時間もしないうちに着く、そう背後に怒鳴った。  月明かりが森の中を照らしている。月光の木漏れ日の中を猛スピードで駆け抜けながら、一心不乱に兵団はアジトを目指していた。  やはり、先程の噂が気になる。ブラント王子が城の武器庫から武器をくすねて、姫の救出に向かったという話が。    ***  ブラント・スティ・ニューヴァース王子は、この国の遥か西に位置する王国の第一王子だ。  とは言え、生まれたときから王位継承が決まっており、また容姿端麗で周辺国の中でも随一の財力を誇る富裕国の王家であることから、生意気な言動が絶えなかったという。  学問にも剣術にも体術にも精を出さず、日々やることと言えば召使いらへのいたずらと側近の悪口大会。青年と言えるほどに成長してからも、努力と勤勉を知らず、怠惰と放漫の限りを尽くすような人間だった。  そんな愚息に愛想をつかした父の国王が、イリアーナ姫との間に持ち込んだ婚姻話がきっかけで、ブラント王子はこの国の宮廷に居座り、毎日のように来賓の間でくつろぐようになったのである。  ゆえに、どうもブラント王子がイリアーナ姫の救出に向かったという噂は疑わしいものだった。  常に富と権力を欲する彼のことだから、婚約者を命がけで助けに行ったという称賛がほしいのであろうということは明白だったのだが。 「・・・・・・まさか、直接ヴィラルバージョのアジトに乗り込んで姫を救おうと奮戦した挙げ句、囚われているようなことはあるまい」  ユークは、馬の手綱を握りながらそう独りごちた。  ヴィラルバージョの拠点まで、あと少しだ。
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