アイデンティティ

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 カタタンカタタンと列車は進む。他の乗客たちは各々(おのおの)座席に腰掛け目を瞑っていたり、スマホをいじっていたり。特段卵に関心を向ける様子は見られない。  しかし卵の存在に気づいてしまった僕は、彼らのように無関心を決め込むことがどうしてもできなかった。 「あの……」  また激高されては敵わない。僕は慎重に言葉を選びながら卵に話しかけた。 「僕、今日これから入社式なんです」  意外にも卵は嬉しそうな笑顔を向けてくれた。 「そうか、おめでとう!」 「ありがとうございます。あの……社会人の先輩から、なにかアドバイスとかいただけませんか?」  社会と言っていいのか? 社会というべきなのか? と逡巡しながら恐る恐る口にすると、卵は「フム」と顎に手を当てて考え込んだ。  今がチャンスとばかりに、答えを待つふりをしながら僕は卵をじっくり観察する。
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