アイデンティティ

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 そこには濃紺のスーツにエンジのネクタイを締めた大きな卵がちょこんと座っていた。   「イベントの着ぐるみかなにかですか?」 思わず問いかけたら、卵は憤慨した。 「なんだね、君! いきなり失礼じゃないか!?」 「あっ、すいません。失礼に当たるとは思わなくて……」  慌てて謝罪の言葉を口にする僕に、卵は溜飲を下げたようだ。 「まぁ見たところ君はフレッシュマンか。仕方がない。こういうことは何事も経験を積んで覚えていくものだからな」 「あ、ありがとうございます……」  ひとまずお礼を言ってみると、卵は満足げに頷いた。 「よろしい。謝罪とお礼が言えれば、まずは社会人として合格だ。この2つはとしての基本だからな」  せっかく褒めてもらっておいて、不行儀で返すわけにもいかない。 『そもそもあなたはなんですか?』という不穏な疑問文を、僕は辛うじて飲み込む。
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