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「……本当に、なんですか?」
だってこんな、いかにも先走ったような振る舞いを、あっさりと受け入れてくれるだなんて……。
「前に早めに結婚の話を進めようと伝えただろう」
パンフレットを私に手渡して穏やかに話す彼に、いつかの言葉をちゃんと覚えていてくれた嬉しさが込み上げる。
「……あの、実はこれは、お父さんからの受け売りで……。だけど急にこういうフェアに誘ったら、貴仁さんには引かれてしまうかなとも思っていて……」
「どうして私が引くと思うんだ?」
うつむいた私の頬に、彼がふっと片手を当てがう。
「だって……なんだかあなたの都合も考えずに、私が勝手に先を急がせようとしているみたいで……」
「そんなことは、気にしなくていい。勝手になどとは、私は少しも思っていない。それに早く君と一緒になりたいと、そう感じているから」
彼の言葉はいつもストレートに胸に響いて、私の抱える愁いをいとも簡単に拭い去った。
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