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俺の初恋は力だった。 それから20年以上。 俺の恋はやっと実った。 初恋は実ることもある。 が、えらく時間がかかった。 あの海で告白したとき、もう二度と会わないつもりだった。 のに、まさかの再会。 しかも再会したらもっと好きになってまいった。 だから自分から離れる決心をしたのに。 「結婚式に出てほしいんだって、咲希が。」 と俺の作ったオムライスを食べながら言われた。 「出たいけど。」 「大丈夫だよ。もう何年経ってると思ってんの。」 「いや、でもな。」 「もし、叔父さんと叔母さんがまだ何か言ってきたら俺が怒ってやるよ。」 「怒るって。」 「俺がついてる。」 「そんな口の横にケチャップつけて言われてもな。」 「わざとだよ。」 上目使いで誘われて、俺は負けてしまった。 でもあの時のことが頭に浮かんで俺は力に触れるのを躊躇った。 「なに、怖いの?」 と俺の手を取った。 「怖くない?大丈夫か?」 「なに言ってんの?肇相手に怖いとか思うわけないでしょ。」 「俺は怖いよ。ずっと好きだったんだから。」 「俺も好きだよ。それでも怖い?」 「好きとか、お前に言われると思ってなかった。」 一人で感激してると笑われた。 我ながら気持ち悪いと思う。 20年以上、俺は力だけが好きで、力だけが欲しかった。 一途、といえば聞こえはいいが裏を返せば変態じゃない? 思いが通じたとはいえ、やはり俺の愛は重い。重すぎる。 力に見つめられるだけで心臓がうるさい。 なのに、抱くとか。 俺、死ぬんじゃないか? 「ごめん。お、俺。」 「なに?」 「まだ無理。」 「は?」 「時間をくれ。」 そう言ってその夜、俺たちはただ同じベットで寝ただけだった。 いや俺だけは寝れなかった。 隣に力が寝てるとか。 それから何度か力は泊まりにきたが手を出せなかった。 力も呆れたのか誘ってこなくなったし。 咲希の結婚式まで3日。 スーツを新調したが正直まだ迷っていた。 結婚式をぶち壊すことになったらどうしよう。 そんなことを考えてたら酒を飲みすぎて帰れなくなり、力に迎えにきてもらった。 「バカじゃないの。」 「ごめんなさい。」 「何だよ、まだ悩んでんの?結婚式に出るか。」 「うん。」 「肇が行かないなら俺も行かない。」 「え?」 「肇を否定するような人たちのいる場所に俺も行きたくない。」 「力。」 「俺はいつでも肇の味方だ。肇が俺の味方でいてくれたように。」 俺はその横顔を覚えている。 俺がバスケの試合で負けて凹んでるとき、ただ黙って側にいてくれた。 その時の横顔と同じだ。 「お前ってカッコよすぎだよな。」 「いまさら。」 「そして綺麗だ。」 俺がそう言うと力は照れて顔を背けた。 俺の覚悟はその時決まった。 力を引き寄せて抱き締めた。 「多少酔ってるけど、酔ってる勢いでじゃないから。」 「え?」 「ほんとにいいの?俺で。」 「いまさら。」 その夜俺はやっと力を抱いた。 ただ、やはり酔ってたからか記憶が断片的でしかなくてとても悔しかった。 だから俺は力を離さなかった。 「てか、何回やんだよ。もうゴムないでしょ。」 と言われるまで。 「え?あ、ほんとだ。」 「やっぱスポーツやってた奴の体力と精力やべぇ。」 「ごめん。つい夢中になっちゃって。」 「謝んなよ。それだけ俺のこと好きってことだろ。」 「何かムカつくけど、その通りだ。でもまだ伝えきれない。なんせこっちは20年分だからな。」 「やばぁ。でも俺を抱いてるときの肇、雄って感じでちょっとカッコよく見えるんだよな。」 「え?そうなの?」 「普段は羊みたいなのに。」 「お前は逆だな。普段はキツネでヤってる時はウサギみたい。」 「キツネってなに?」 「計算高くてしたたかで、綺麗だ。」 力の弱点は褒められること。 こんなに長い付き合いでもまだ知らないことはたくさんある。 まさかうちの両親の前で結婚宣言するなんて思ってもなかったし。 愛してるなんて言われると思ってなかった。 好きって感情が分からないと言ってた彼が少しずつ変わっている。 それは俺も同じで、自分では気付かないうちに変わってる。 でも変わらないのは、カメラを向けてシャッターを押すと必ずその景色のなかに彼がいる。 「なにボーッとして。せっかく久しぶりに海にきたのに。」 「ここでお前に告白したとき、俺の初恋は終わったと思った。」 「初恋だったんだ。」 「去ってくお前の後ろ姿見ながら、絶対幸せになってほしいって思った。」 「俺はちょっと寂しかったな。もう会えない気がして。だから先に死なないでね。」 「俺のが年上なのに?」 「そんなの関係ないよ。俺のことは肇がちゃんと見送ってね。」 「そんな先の約束はできかねます。今約束できるのは、明日も側にいる。それだけだよ。」 「いいよ。毎日約束してくれたら永遠になるでしょ。」
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