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「……絢乃さんって、こういう時はすごく子供っぽくなりますよね」
「うん。だってわたし、数ヶ月前までは高校生だったもん。子供みたいなものでしょ? 貢はそれがイヤなの?」
「そういうわけじゃ……。むしろ、可愛いなって思いますけど。というか、こうして遊んでて、乗船時間に間に合うんですか?」
「……大丈夫、でしょ。多分」
わたしたちが予約しているうず潮クルーズの船は、出航時間が決まっている。貢はそのことを心配しているみたいだ。
ちなみにこのクルーズ船は、少々の雨くらいなら欠航せずに予定どおり港を出るらしい。
「ここから福良港まで、車で一時間もかからないみたいだし。ここで昼食も済ませてから行けば十分間に合いそうだよ」
お昼は〈幸せのパンケーキ〉で食べる予定にしていたけど、仕方ない。……自業自得だし。
「ですね……。でも残念だなぁ、パンケーキ楽しみにしてたのに」
「実はわたしも……。ゴメンね、貢。わたしのワガママのせいで。パンケーキは明日食べに行こうね」
さすがはスイーツ男子。今日パンケーキにありつけなくなったことを、彼は本気で残念がっている。わたしは彼に申し訳なくて、お詫びついでに彼を慰めた。
「はい。……まあ、多少の予定変更があってもいいですよね。せっかく夫婦水入らずの旅行なんですし」
「そうそう。最悪、行き当たりばったりでもいいくらい。楽しければいいんだから」
わたしは元々、チマチマと予定を立ててそのとおりに旅をするなんて好きじゃないのだ。
それが社員旅行とか修学旅行なら、仕方なく決められたスケジュールに従うけれど、プライベートの旅行でまでそれをやったら間違いなく気が狂ってしまう。
「もし、うず潮を見てからまだ時間が早いようだったら、その後にでも行けるだろうし。ね?」
「あー、そうですね。その手があったか! ビバ、プライベート旅行ですよね」
今日のうちに楽しみにしていたパンケーキが食べられる可能性が出てきたおかげで、貢のテンションがおかしなことになっている。彼ってこんなにコワれた人だったかしら?
「うん……。どうでもいいけど貴方、めちゃめちゃハイテンションになったね。そんなに嬉しいの? っていうかそんなキャラだったっけ」
「はい! めちゃめちゃ嬉しいですっ!」
彼の目がキラキラ輝いている。貴方、お子ちゃまですか!?
そして、キャラ云々という話は思いっきりスルーされた。……まぁいいか。
「……そう。じゃあまあ、そういうことで」
わたしたちの乗っているゴンドラは、ちょうどてっぺんまで到達するところだった。
昨日、神戸港から見た景色もスゴかったけど、ここから見える景色も負けず劣らずキレイだ。この景色を里歩や唯ちゃんと共有すべく、わたしはスマホのカメラを構え、撮った写真をすぐにタイムラインにアップした。
「――さて、下に降りたらちょっとお土産でも見て、それからお昼ゴハンね。今日は何にしようか」
わたしは彼にそう言いながら、スマホで検索する。
このサービスエリアには、レストランもフードコートもあるらしい。わたしはどちらでも構わないけれど、メニューはどちらかというとフードコートの方が豊富なようだ。
「けっこう色々あるんですね……。でも今日は和食というか、丼ものな気分かなぁ。……あ、パンケーキは別腹で」
「まだ言うかね」
彼の執念深さに、わたしは思わず吹き出してしまった。
「……でも、わたしも丼もの食べたい気分かな。せっかく淡路島まで来たんだし、海の幸なんかいいかも。神戸では食べてなかったもんね」
とにかく、二人とも「丼ものがいい」という点で意見が一致した。あー、お昼ゴハンの話をしていたらなんかお腹すいてきた!
* * * *
――その後、わたしたちはお土産を少し買ってから、フードコートのメニューで昼食を済ませた。
貢はチキン南蛮丼を美味しそうに頬張り、わたしはサーモンやイクラが載った丼に舌鼓を打っていたのだった。
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