国生み伝説と夫婦の絆

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   * * * * 「――篠沢様、お気をつけて行ってらっしゃいませ!」 「行ってきます!」  美味しい朝ゴハンでお腹もいっぱいになり、ホテルの従業員さんたちに見送られてホテルを()ったのは午前九時半。  梅雨の時期らしく、しとしとと降り続く雨の中、貢の運転するレンタカーは淡路島を北西に向かって進む。 「まずは〝おのころ島神社〟ですか。南あわじ市の」 「うん。ご利益は……えーっと、『夫婦和合・良縁堅固・安産祈願など』だって! 新婚のわたしたちにピッタリだね」  わたしは淡路島のガイドブックとスマホで検索した神社の情報を照らし合わせて頷いた。  夫婦末永く仲良く幸せに、そして子宝にも恵まれる……。うん、まさに新婚カップルのわたしたちにはのパワースポットだ。 「その神社の周りにも、国生み伝説にまつわるスポットがいくつかあるみたい。そこも回ってみよっか」 「いいですねぇ、そうしましょう」  運転席で貢が頷いた。アクセルペダルを踏む彼の足元は、珍しくスニーカーである。  そういうわたしも、今日の靴はハイカットスニーカー。泥ハネしても大丈夫なように、カーゴパンツに七分袖のカットソー、そして今日は自前のパーカーというアウトドアスタイルなのだ。  ――それから車を走らせること十数分。〝おのころ島神社〟の真赤な大鳥居が見えてきた。    駐車場で車を降り、日本三大大鳥居の一つといわれている大鳥居をくぐるとそこはもう神社の境内。  階段を上がってすぐ右側に、紅白の長い縄が垂れ下がっている大きな石が鎮座している。パンフレットによれば、これは「鶺鴒(セキレイ)石」というらしく、お目当てのパワースポットの一つだった。  古事記の内容では、伊弉諾尊と伊弉冉尊はこの石の前で夫婦の契りを交わしたそうだ。そこからこの二柱による国生みが始まったのだという。 「ねえねえ貢。この石、良縁を結ぶ石らしいよ! カップルの場合は男性が赤い縄、女性が白い縄を軽く握りながら手を繋ぐと今の絆がより深まるんだって。わたしたちもやってみようよ」  わたしたち夫婦の絆はすでに強いけれど、ここにこういうご利益のある場所があるならそれに乗っからない手はない。 「やりましょう。……でも、傘はどうしましょうか?」  この儀式をやるとなると、必然的に両手がふさがってしまう。雨はそんなにひどいわけではないけど……確かに、傘をどうするかという問題が出てくる。 「傘は閉じてても大丈夫でしょ。多少濡れてもいいように、二人ともパーカー着てるんだし」 「そうですね」  ということでわたしたちは差していた傘を閉じて腕に引っかけ、貢は左手で赤い縄を、わたしは右手で白い縄を軽く握り、手を繋いで見つめ合った。 「どうか、わたしたち夫婦の絆が末永く続きますように……」 「絢乃さんとずーーーっと仲の良い夫婦でいられますように……」  お互いに言葉こそ違うけれど、願いは同じだった。 「――じゃ、お参りに行こうか」 「はい、行きましょう」  ふふふっ、と笑い合ってから、わたしたちは再び傘を差して雨降る参道を進んでいく。  最初に見えてきた社殿は拝殿ではなく「神楽(かぐら)殿」というらしいけれど、この神社に参拝に来た人たちはここで手を合せてお参りするのだそう。もちろん賽銭箱も置かれている。  わたしたちもお賽銭を投げ、二礼二拍手の作法を守って夫婦神に祈りを捧げた。 「絢乃さんは何をお願いしたんですか?」 「ナイショ♡ っていうか分かってるクセに」  こういう会話は、神社に参拝した時のお約束かもしれない。なので、わたしからも同じ質問をしてみた。 「そういう貢は何をお願いしたの?」 「ヒミツです」 「ほらね」  最初に訊いてきたくせにすっとぼける。でも、わたしはそんな彼のことも憎めないのだ。
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