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――昼食はわたしと貢の食べたいものの希望が一致して、淡路島バーガーに決まった。
沼島から淡路島本土に戻り、いちばん近いところで、福良港の近くに位置する〈道の駅うずしお〉のテラスにあるお店で頂くことにした。雨上がりのテラスで頂くのはちょっと難しそうなので、店内で食べようと思う。
淡路島バーガーというのは、淡路島の名産である玉ねぎと淡路牛を使用したボリューム満点のハンバーガーのこと。某有名バーガーチェーンのものよりもかなり大きいので、食べ応えはかなりありそうだ。その分、お値段も二倍くらいするけれど。
二人仲良く「あわじ島オニオンビーフバーガー」とポテト、飲み物に貢はアイスコーヒー、わたしはアイスカフェラテをオーダー。ソフトクリームも何種類かあったけれど、多分バーガーとポテトだけでお腹いっぱいになるので今回は諦めた。
「……ん~、美味しい♡ お肉がジューシーだね♪」
「うん、美味い! 玉ねぎが甘いんですね。それにしてもスゴいボリュームだ」
テーブルに向かい合って座り、大きな口を開けてバーガーにかぶりつく。あまり上品ではないけれど、こうして二人でハンバーガーを食べるというシチュエーション自体は付き合っていた頃から何度かあったのでもう慣れっこだ。そもそも、お腹ペコペコの時にムードもヘッタクレもあったもんじゃない。
「――あの、絢乃さん」
「……ん?」
ポテトをつまんでいたわたしに、アイスコーヒーで喉を湿らせた貢が真剣な顔でこんなことを訊いてきた。
「専務就任の件なんですけど……、ホントに断ってもいいんですね?」
「うん。貴方がどうしても荷が重いって思うなら、全然断ってくれてもいい。わたしもママも無理強いする気はないし、大事なのは貴方がどうしたいか、だから。貴方を困らせるようなことはしたくないの」
「そう……ですか」
わたしはカフェラテをストローですすってから、「でもね」と続ける。
「貴方は迷ってるようにわたしには見える。本当にやる気がないなら、貴方の性格上迷わずに断ってるでしょ? だったら、貴方にはやりたいって気持ちがあるんだと思うな」
「あ……、それもそうですね。あの、返事ってこの休暇が終わるまでで間に合うんですよね?」
「そうだよ。休暇が終わってしばらくしたら、今月の末に株主総会があるから。その時に発表するつもり」
「じゃあ、もう少し考えてみます。いいですよね」
「分かった。よーーく考えて、貴方が後悔しない選択をしてほしい。それでも断られたら、その時はこっちで考えるから」
「はい。――で、この後はどこに行きます?」
彼が納得して、次の目的地について訊ねた後、またバーガーにかぶりついた。
「んーとね、ここからまた北上して岩戸神社に行って、最後は伊弉諾神宮で終わろうか」
わたしはスマホの地図アプリを開き、残った時間で回れそうなパワースポットを挙げていった。
「また長距離の運転になるけどゴメンね? 大丈夫?」
「大丈夫ですよ。任せて下さい♪」
彼はそう言ってくれたけれど、やっぱり彼ひとりに運転を任せるのは心苦しい。わたしも絶対に免許を取って、運転を交代してあげられるようになろう。
今すぐにはムリだと思うけど、いつかは……。
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