淡路島、最後の夜

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「でも、連絡先は知ってるんでしょ? だったらさ、いい機会なんだし連絡取ってみたら? 『結婚した』って報告も兼ねて」  相手だって、貢からの連絡をずっと待っていたかもしれないのだ。結婚の報告は、友人関係を再開するちょうどいいキッカケになると思う。 「そう……ですね。東京に帰ったら、一度連絡してみます。でも、久しぶりの連絡が結婚の報告って、絶対に冷やかされるだろうな」   そう言いながらも、彼は嬉しそうだ。わたしと里歩、唯ちゃんとの関係が、彼にいい影響を与えられたのかもしれない。 「――絢乃さん。ケーキ、もう一つ注文しますか?」  お喋りを楽しみつつ、もうちょっとでケーキを食べ終える頃になって、貢がそう訊ねてきた。 「ううん、これでもうやめとく。これ以上食べたら、夕飯が入らなくなっちゃいそうだから。貢、足りなかったらもう一つ食べなよ」 「いえ、僕もこれでやめときます。その代わり、今日の夕食では久々にビールでも飲もうかな……なんて」 「あ、そういえば貢、ちょっとは飲めるんだっけ」  初めて出会った日、彼がそんなことをチラッと言っていたなと思い出した。もう一年半以上も前のことなのに、彼の一挙手一投足をわたしはちゃんと憶えている。……中には記憶がごちゃ混ぜになってしまっていて、わたしは憶えていなくても貢の方が憶えていることもあったりするけれど。 「じゃあわたし、お酌してあげるよ」  「いいんですか? ありがとうございます。絢乃さんのお酌で飲めるなんて恐縮です」 「そういうの、もういいから」  彼が冗談で言っているのが分かるから、わたしも冗談で返した。 「そろそろお部屋に戻ろっか。夕食前に軽く入浴済ませて荷物もまとめとかないと」 「そうですね」  というわけで、わたしたちはお会計を済ませ(珍しく割り勘だった)、部屋に戻ることにした。 「…………あ、電話だ。ママから」  スマホの着信に気づいて途中で立ち止まる。そうか、もう会社は終わってる時間なんだ。 「もしもし、ママ?」 『絢乃、今大丈夫? っていっても大した用件じゃないんだけど。――お土産ありがとね。今日届いてたわ』 「えっ、もう届いてたの? 昨日発送したばっかりなのに」  まさか配送を頼んだ翌日に届いているなんて、ちょっとビックリだ。 「お酒のアテみたいなのがいいって言ってたらしいから、二人で選んだんだけど。あんなものでよかった?」 『ええ、上出来よ。何より、あなたが貢くんと二人で一生懸命考えて選んでくれたことがママは嬉しいわ』 「そっか、よかった」  わたしは元々、誰かのために贈り物やお土産を選ぶのが大好きなので、こうして喜んでもらえると「選んでよかったな」と手応えのようなものを感じられてわたしの方も嬉しくなる。 『旅行はどう? 楽しんでる?』 「うん、楽しい。神戸も淡路島もすごくいいところだよ。美味しいものもいっぱい食べたし、ステキな景色もいっぱい見られたし。今日はね、二人で淡路島のパワースポット巡りをしてきたの。なんかそれで、夫婦の絆がより深まった気がする」 『そう、よかったわね。仕事の方は心配しなくて大丈夫よ。今の時期は、どうしてもあなたの決裁が必要なことも特にないし。何の問題も起きてないから』 「そっか。安心した。でも、余計に早く東京(そっち)に帰りたくなったな」 『えっ、どうして?』  なぜだか自然とそんな言葉が出てきて、電話の向こうにいる母だけではなく貢までもが「えっ?」と驚きの声を上げている。  どうしてだろう? わたし自身も首を傾げたけれど、その答えはすぐに出た。  東京こそが、わたしが見つけたいと思っていた〝ふるさと〟なんだということに気づいたのだ。
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