旅の終わり

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旅の終わり

 ――新婚旅行、最終日。  「んー? 眩しい……」  わたしはキラキラした光を浴びて目が覚めた。部屋の時計は朝の六時を示している。今日も昨日ほどではないけれど早起きしてしまった。  多分二日酔いで潰れていて、まだ起きられないであろう貢を起こさないように布団から起きだし、大きな欠伸をしながら窓のカーテンを開ける。昨日見た〝天使の梯子〟のおかげだろうか、今日は晴れている。 「んー、いいお天気♪ ……わぁ……っ!」  外はちょうど朝日が昇るところのようで、視線を下に移すとその光が海面に反射してオレンジ色にキラキラ光っているのに気がついた。  神戸で泊まっていたホテルで観た、関西ローカルで流れているらしいこのホテルのCMに、こんな光景が入っていたことを思い出した。なるほど、あれはこの光景の映像だったらしい。 「……あ、写真撮っとこう。昨日の失敗をふまえて」  わたしは手荷物のバッグからスマホを取ってきて、シャッターを切った。写真では伝わりにくいこの景色をよりキレイに映すため、明るさを調整してからもう一枚。 「うん、キレイに撮れた♪ 里歩たちに送ってあげようっと。あと、インスタにも上げて……と」  ひととおりスマホの操作を終えると、スーツケースから替えの下着と洗面用具、お化粧ポーチを出して浴室で朝風呂。お風呂上りに念入りに洗顔もして、ついでにスキンケアもした。 「お風呂上りって、化粧水の浸み込み具合が違うんだよね……。うん、今日もお肌ツルツル♡」  汚れた下着は替えの下着が入っていたチャック付きのビニール袋に押し込み、家まで持って帰って史子さんに洗濯してもらうことにした。  そうこうしている間に、そろそろ七時だ。貢をゆっくり寝かせてあげたいのはやまやまだけれど、そろそろ起こさないと仲居さんが布団を上げられない。 「貢ー、起きて。もうすぐ七時だよー」  ゆさゆさと揺すりながら呼びかけると、「んーー?」と少しだるそうな声がして彼は目を覚ました。 「絢乃さん、おはようございます……。頭がズキズキする……」 「二日酔いだね。弱いのに、調子に乗って瓶ビール一本飲んじゃうからでしょ」  やっぱりな反応に、わたしは呆れた。ここは妻としてガツンと言うべきところだろう。 「すいません……」 「まったくしょうがないなぁ。わたし頭痛薬持ってるけど、飲んどく?」 「ありがとうございます。あと、何かつまむものも」 「はいはい。待ってね……」  わたしは錠剤を二錠を備え付けの冷蔵庫から出したミネラルウォーターを一緒に彼に渡し、神戸の水族館で買ったクッキーを開封して一枚あげた。実はこれ、里歩たちへのお土産とは別に、自分用に買ってあったものである。お土産の紙袋はクルマの後部座席に積んだままにしてあるのだ。 「あ、すみません。――あれ、このクッキー……、いいんですか?」 「いいのいいの。これは自分で食べる用の分だから」 「何から何まで、ホントすみません」  彼は何度もわたしに頭を下げてから、ようやく薬を飲んだ。クッキーをつまんだのは、朝食前だったので薬で胃が荒れるのを防ぐためだろう。 「……朝ゴハン、今日は和食にした方がよさそうだね。確か、しじみのお味噌汁もあったと思うし」 「そうします。世話の焼ける夫でホントにすみません。この先も何かと迷惑をかけるかも――」 「もういいから! 謝るのはナシ。分かった?」 「…………ハイ。――あ、内線かかってきてますよ」  絶妙なタイミングで、部屋の電話が鳴った。 「うん。じゃあ、貢はお風呂に入っておいで。――はい、おはようございます!」  このお部屋担当の仲居さんは、昨日の朝と同じくハキハキした声で「今からお布団を上げに伺ってもよろしいでしょうか?」と言った。    * * * *  ――今日は和の朝食バイキングでお腹を満たし、洗面用具などのこまごました荷物のパッキングも済ませると、チェックアウトの時刻である九時になった。
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