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「――篠沢様。このたびは当館をご利用下さいまして、誠にありがとうございました」
部屋のキーを返却すると、支配人の男性が丁寧に頭を下げて下さった。
「こちらこそ、二日間お世話になりました。夏にまたこちらを利用しようって夫と話してたんです。今度は三泊で」
宿泊費はまたわたしのカードで支払いながら、夏の計画についてそれとなく彼に伝える。貢は駐車場へクルマを動かしに行っているので、この場にいない。
「さようでございますか! では、ご予約をお待ちしております」
「はい。その時にはまたよろしくお願いします」
「――絢乃さん、クルマ持ってきました! 荷物、積み込みますね」
「うん、ありがと! ――それじゃ、失礼します」
ホテルの男性スタッフさんが手伝いを申し出て下さったけれど、わたしたちは自分たちだけでクルマのトランクにスーツケースを積み込んだ。
ちなみに、今日のわたしは足元こそハイカットスニーカーだけれど、三日ぶりにスカートを解禁した。トップスは二日前と同じクリーム色のフレンチスリーブのカットソー。
貢もよく見たら、二日前とほぼ同じコーデみたい。違うのは靴がスニーカーだということくらい。
「さあ、再び神戸に向かってしゅっぱーつ!」
「「おーっ!」」
こうして彼の運転するクルマは、二日ぶりの神戸に向けてスタートした。二泊三日お世話になったホテルがだんだん遠くなり、しばらくして高速に乗った。
「あのホテル、スパもあったんだって。今度泊まる時は利用させてもらおうかな」
「スパですか? そんなの利用しなくても、絢乃さんは十分キレイだと思いますけど」
助手席でコンパクトを開いてメイクを始めたわたしに、彼が嬉しいコメントをしてくれる。動いているクルマの中でこういう芸当ができるのは、彼の運転が上手で安定しているからだ。
「あら、嬉しいこと言ってくれるじゃん♪ そりゃあねぇ、お肌のお手入れには力入れてますから。だ~~い好きな貴方のためにね♡」
「…………それはどうも」
わたしの言葉に、彼は照れたようにボソッと呟いた。もう一緒に暮らし始めて二ヶ月以上になるのに、ちょっと照れすぎじゃない? でも、彼のこういう初々しい反応もわたしは好きだ。
* * * *
高速道路をしばらく走って、わたしたちは〈淡路ハイウェイオアシス〉に立ち寄った。神戸に戻ったらレンタカーを返却しないといけないし、新幹線の発車時間もあるのでここで少し早めのランチを摂って、お土産も少し買っていくことにした。
ここには、特徴的な髪形をしている某大物女性司会者に見た目がそっくりなゆるキャラがいる。その名も――。
「――〝淡路タマ子さん〟?」
わたしたちはそのキャラクターのパネルの前で、二人揃って首を傾げた。この見てくれは可愛いか可愛くないか、評価が分かれるところだ。というか。
「貢、これって絶対狙ってるよね? この髪型といい、顔といい」
「う~ん……」
その女性司会者も玉ねぎのような髪型で、そこにキャンディが入っていたりする。顔もよく似ているし、絶対に彼女をモデルにして作られたキャラだとしか思えない。
「……そんなことより、お昼はどうします?」
「じゃあ、今日はあそこのパスタ屋さんで食べよう。わたしは明日もイタリアンだから二日続いちゃうけど、別にいいか」
というわけで、少々値は張るけれどパスタとピザの美味しいお店でランチを済ませて、お土産を見て回った。
玉ねぎが有名な淡路島らしく、川元さんもおっしゃっていたレトルトの玉ねぎスープももちろん売られている。これは絶対に外せないので、母やウチの使用人の人たち、会社のみなさん、そして里歩と唯ちゃんのお家の分もドッサリ買い込んだ。
他にもわたしは親友たちのために徳島県に近いので鳴門金時のお芋を使ったお菓子や、貢は母とお義兄さまのために明石ダコのおせんべいなどを買った。
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