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「語学はともかく、さっきはご主人、絢乃さんにカッコいいところ見せられたじゃないですか。ローキックが見事にヒットして。キックボクシング習ってたのが役に立ちましたね」
「いえいえ! あれはたまたまですよ! 絢乃さんを守らないとって思ったらもう必死で」
彼は必死に謙遜しているけれど、わたしが助かったのは真弥さんたちのおかげだけじゃない。彼のローキックがなければ、真弥さんが駆けつけるのだって間に合っていたかどうか。
「真弥さん、カッコよかった! 内田さんも、さすがは元刑事さんって感じでした」
「ありがとうございます~♡ でも災難でしたねー、絢乃さん。楽しい新婚旅行から帰ってきた途端にこんな目に遭うなんて」
「うん、ホントに……」
あの件が片付いてから八ヶ月は経っている。裁判も結審してそろそろ一ヶ月。今頃になって、あの人に再会するなんて……。しかも、幸せいっぱいのこのタイミングで。
「あの人にはもう二度と会うこともないと思ってたのにな……」
「まぁでも、こうして警察に引き渡すことになったわけですし。こんなことでもなきゃ、あたしたちも絢乃さんたちに再会できなかったと思うんで。不謹慎かもですけど嬉しかったですよ」
「そうかもね。わたしもお二人にまた会えて嬉しかったです」
「ええ。絢乃さんを助けて頂いて、僕からもお礼を言います。お二人が来て下さらなかったら、僕一人ではどうなっていたかと思うと……」
「ううん、貢も十分頼もしかったしカッコよかったよ。わたし、貴方に惚れ直した♡」
わたしは貢をベタ褒めしたけれど、これって真弥さんたちにはノロケを聞かされているようにしか思えないかも。
――と、そこへパトカーのサイレンの音が近づいてきて、目の前に止まった。刑事さんが三人降りてきて、そのうち二人が小坂さんをパトカーの後部座席に乗せる。
そして、残った一人――内田さんより少し背が低く、年齢は貢と同じくらいの男性がわたしたちの方へ歩いてきて頭を下げた。胸ポケットから出した警察手帳を広げてわたしたちに見せる。……わぁ、本物の警察手帳、初めて見た。
「どうも、警視庁捜査一課の杉原です。襲われたというのはあなたですか?」
「はい。篠沢絢乃と申します。この人は夫の貢です」
「篠沢貢です」
彼は一応有名人であるわたしにも、ごく普通に接して下さった。有名人として特別扱いされるのは今でもあまり好きじゃないので、わたしはむしろその方が助かる。
自己紹介がひととおり終わったところで、杉原さんは今度は内田さんに頭を下げる。
「内田先輩、どうも。通報と現行犯逮捕にご協力ありがとうございました」
「いや。ご苦労さん。――あの男、元俳優なんだとさ。落ちぶれたもんだよな」
元コンビだというお二人の会話を聞きながら、わたしたちのお腹がグゥ~……と小さく鳴った。
「お腹すいたねー。お昼ゴハン、早かったから」
「はい……。事情聴取、ホントに早く終わるんですかね」
「もし長引きそうだったら、あたしがデリバリー頼みますから。もちろん支払いもあたし持ちで」
空腹で事情聴取を受けることになり、ゾンビ化しそうなわたしたちに、真弥さんが小声でそっとそんなことを言ってくれた。
「真弥さん、いいの? ありがとう! なんか気を遣わせちゃったみたいで悪いね」
「いえいえ。あ、ウッチーたちには内緒で。特にあの杉原にはね。アイツ、口うるさいんだもん」
彼女の最後のセリフに、わたしは思わず吹き出した。やっぱり真弥さん、あの杉原さんっていう刑事さんと仲悪いんだ……。
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