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伊瀬に戻って
「テルさまー、ご飯ですよぉ。まーた、起きてないんじゃ・・・」
「起きてる、起きてるって。」
「ホントにもぉ。いま起きたんでしょ。早く食べてくださいよ。」
「うん、うん。あーー・・・ふぁぁぁ。」
あの後、湯あたりしたテルを諏訪の神が肩に担いで運んで涼しいところに寝かせて山の冷たい水をくれたので、翌朝にはスッキリ元気になっていた。そのあとは、乙姫がいつも使っているというウナギたちの通る川を下って、海に出て伊瀬に戻ったのだった。アメノイワフネは、めり込んでしまったしテルが「ものすごく疲れるから嫌」だといったので、置いていくことにした。
「あーあ、今日もご飯食べたらカワラケつくりかあ。」
前だったら、そう思っていたのだが今はちょっと違う。
諏訪の神のところで、「いにしえの神」の像をみせてもらったのだ。諏訪の神の付けている三角の仮面をつけた神の姿だった。カワラケを作る土でつくって焼けば、こんな感じのものができそうだなと思って伊瀬に帰ってから、時々作っているのだ。
カワラケと違って、形が複雑なので今はまだうまくできないで、作っている途中で壊れたり、焼いているときに割れたり。
「なかなか難しいものだなあ、簡単だと思ったのに。」
うーーーん、と伸びをしてはゴロっと横になる。
諏訪の神のところに落ちたときも、こうやって空を眺めてたなー。この空は諏訪の神も見ているのだろうか。
「空ってつながっているからなあ。でも諏訪の神は水もつながっているし森もつながっているっていってたな。みんなつながっていると。」
ごろごろしていると、トヨの来る足音が聞こえたので慌てて起きてカワラケをつくってるふりをした。
「またさぼってたんでしょう。」
「そ、そんなことはない。ちゃんと作っていたぞ。」
ちらっと仮面の神の像の出来損ないをみるトヨ。
「カワラケ、あと10枚は作ってくださいよ。」
「はいはい。」
「ハイは一回。」
「はいはい。」
「10枚作ったら、あとはご自由に。」
「おお、10枚作ったらなー。あとはお茶とお菓子くれ。」
「さっき、ご飯食べたじゃないですか。」
「はたらくと腹が減るんだよ。」
「カワラケ10枚ちょっとくらいで働いたって言いません。」
そういいながらも、諏訪の神にあってからテルの食が進むようになってトヨはちょっと嬉しい。前はおいしくないといっていた魚も良く食べるようになった。
「やっぱり、星屑石のおかげですかねぇ。テルさま、鉄の包丁の味がいやだったなんて。稲穂を摘むのもこれを使ってみようかしら。」
諏訪の神からもらった星屑石のナイフで魚をさばくトヨ。
「割れたら乙姫にいえば届ける。」といってもらったけど、大事にしよう。たしかにこれで捌いた魚は、美味しいような気がする。
トヨがもって行った塩の包みの1つが山あいに落ちて、そこから塩の水が出るようになって鹿たちが喜んでいるのでと、お礼代わりにもらったものだ。テルも1つかけらを貰って首から下げている。キラキラして綺麗なので時々ヤタガラスが欲しそうに見ているから、普段は服の下に見えないようにしているようだ。
「これが、うまくできたら諏訪の神に見せに行こう。」
そうつぶやきながら、せっせと三角の仮面をつけた女神の像を作るテルだった。
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