お祝い

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「それがまた酷く悔しくてな。完全に逆恨みなんだけど、舞香にむかついて、だから貧乏人だって揶揄い始めたんだ。お前はこっちの揶揄いにも全然負けず飛び蹴りしてくるわけだけど」 「それで泣いて帰ったのね」 「だから泣いてないって!」  玲が笑う。私もつられて笑った。 「それから何度も舞香にちょっかいかけに行ってはやられて帰ったな。ゴリラ女は強すぎた」 「ゴリラて」 「でも今思うと、俺舞香が羨ましかったんだ。吹っ切って強くいる舞香みたいになれたら楽だろうな、って思ってた」  ややか細い声は、玲には珍しい。私は玲のように、何もない壁をぼんやり見ながら言った。 「それはね、私は一人じゃなかったから。勇太がいたでしょ。だから、参観日に親が来ないのは勇太も一緒だって思えた。だから耐えられたってだけ。玲は一人で耐えなきゃいけなかったから、きっと辛かったと思う」  クズな親に期待することはすぐに諦め、勇太との暮らしを守ることが優先だった。勇太がいることで大変なことは多かったが、いることで救われたことの方が多かった。勇太の存在がなければ、私はここまで強くなれていない。  玲が小さく笑う。
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